現代 恋愛
□Smile Smile
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花のような笑顔という言葉があるけれど、それを一体誰が考えたとか、そんなことは知らない。
いつの間にかその言葉を覚えていたし、使い方も理解していたから、差して不思議に思うこともなく過ごしてきた。
この年になって、
この学校に入って、この学年に、このクラスになって、
もっと厳密に言うなら5月に席替えがあってから「果たしてこの言葉を考えたのは誰なんだろう」などと考え始めた。
何故かって言うと。
「おはよう、柊くん」
そういって、「もう何十回も読んでるよなそれ?」と言われそうなボロボロの哲学書に目を通している僕に笑いかけてくれる彼女がいるから。
「おはよう、古田さん」
本から目を離して、彼女に挨拶を返す。
いつものこと。
「今日の本は」
と、彼女が僕の本の表紙をじっと見る、これもいつものこと。
「柊くん」
「何?」
「君は一体いくつだね?」
突然、口調と声色を変えて何を尋ねてきたかと思えばそんなことだった。
「一応今年で16の予定だけど」
それもそのはずか、この本のタイトルには「14歳からの哲学」と書かれているのだから。
「あれ? それってひょっとして受け狙いだったりする? 突っ込んだほうがいい?」
「いや、そんなつもりはないけど」
第一これで受ける奴がいるのかという話で。
こんなもので笑いが取れるというなら、全ての芸人はこの本をすぐさま紀伊○屋やらBOOKOF○買いに行くに違いない。
「っていうか、16の予定って何!? 嫌でも年はとるんだから、変更不可能だよその予定!!」
「うるう年生まれだったら4年に1回しか誕生日を迎えないよ?」
「あ、そっか。ってそれって何か3月1日あたりを誕生日の代用にするんじゃなかった?」
代用にしているんじゃなく、人間が加齢するのは誕生日の前日の24時と決まっているから、3月1日生まれの人と同じ用に年をとるというだけだ。
「そうともいうし、そうとも言わない」
「どっち? っていうかこのボケ振ったの柊くんだよね!?」
「さぁ、どうだったかな」
「もう!!」
と、少しだけ膨らんだ顔をして、彼女は笑った。
まさしく、花のような笑顔で。
些細なおしゃべりで、
君が、笑う。