<main>BLEACHオリジナル小説 -長編- 第二章

□future〜第二章〜(前編)動揺・不協和音編
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全ては、史上初、新たなる柱を迎え、この世界は変わっていく……―。


桃達との対面が済み、再び眠りについていた白哉の睫毛が、まるで風になびくかのように、微かに揺れた。
彼もまた、記憶の中にいたのだ。
今や遠く、懐かしい記憶。
彼女と出会ったばかりの…愛おしい、記憶。

はじめに、癒衣がこの瀞霊廷に足を踏み入れた時。
柱を迎える―というのは、この世界史上、初の試みであった。
癒衣の素性も、この時はまだ一切明かされず。
故に、彼女を最初に出迎えた白哉をはじめとする護廷十三隊の各隊長達は、新しくこの世界の中心となるアイアン・メイデンのことを、ほとんど何も知らず出迎えたのである。
いざ、自分達の目の前に、癒衣が現れた時には。
皆、驚愕と、一種の落胆を覚えただろう。

無理もない。
癒衣はこの時、まだ十二歳であった。
何よりも、その儚さが。誰の目にも引き立った。
悲しいほどになびく、美しき銀髪。憂いを含んだような瞳が、ただ静かに、彼等を見ていた。
幼い―ということも勿論そうだが、その儚さが、これからに対する不安を、どこか連想させたのだ。
けれど、頭を下げ、各隊長達が中央にあけた道を…。
彼女が、いざ、通り過ぎて行った時には。
幼さや、先に抱いた不安など、微塵も感じられなかった。
強く、けれど澄みきった清浄な霊圧が、音もなく通り過ぎたような。
そんな、はっとさせられるような出会いだったのだ。

元々護廷十三隊は、癒衣が柱就任前に彼女自らが強く望んだものである。
一隊長の白哉にはその理由を知る由もなかったが、当時から六番隊隊長として就任していた白哉には、もうひとつ、重要な役割が与えられたのだ。
それが…―。このふたりの運命を、更に強く結び付けたのかもしれない。


「本日よりメイデン様付きの護衛を任されました、六番隊隊長、朽木白哉です」
よく晴れた暖かい日、木漏れ日が差す中で、白哉はこの日初めて彼女と向き合った。
丁寧に片膝を折り、頭を下げながら彼女の言葉を待つ。
柔らかな挨拶が返ってくるのかとも思ったが、その第一声は、思っていたものと全く違った。
「私の命……―、貴方に託しても?」
既に、己の死について覚悟を決めているかのような。
そんな、容易に受け止めてはならない、強い言葉だった。
驚き、思わず見上げたその先には、まだ少女とは思えぬ、実に大きな彼女の姿があった。
その漂う気品に、白哉は目を細める。
彼女が何故この瀞霊廷に、アイアン・メイデンという史上初の柱という大役を担って来たのか、何故か、分かる気がした。
「無論…―。身命を賭してお守り致します」
それを聞いた瞬間、癒衣の表情が、やっと少女らしく花のように和らいだ。
白哉はこの一瞬を、一生忘れないだろう。
「信頼していますね、白哉」
名を呼ばれ、白哉はくすぐったいような、不思議な感覚を覚えた。
その傍らでずっと見守っていた夜一は、滅多に動かぬ彼の口元が、確かに、そっと微笑んだのを目にしたのだ。




誰かに、そっと肩を叩かれたような。
半ば揺り動かされたように、目を開けた白哉。
癒衣のあの時の花のような微笑みが、白哉の脳裏に、鮮やかにあった。
「また、眠ってしまっていたのか……」
白哉は不思議と、いつもならば目覚めた時必ず感じる、虚無感や疲れを、この時は一切感じていないのを悟った。
先程まで、夢を見ていた。
いや…―夢だったのだろうか、あれは。
いつも見るそれよりも、妙に現実味があって、苦しくはなく、終始光に包まれているような感覚だった。
「癒衣……―?」
彼女の、鼓動を。
白哉はこの時、確かに感じたような気がしたのだ…―。
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