<main>BLEACHオリジナル小説 -長編- 第二章

□future〜第二章〜 (前編) 迷走・再会編@
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現世、東京。

夢を、見ている。
愛する人の刃をその身に受けても、彼女は、強く…―、幸せそうに、微笑んでいた。
己の歩んだ人生に、一片の悔い無し。
最期に見せた、表情も。終始一貫した立ち振る舞いの、その全てが。そう、物語っていたのだ。

日番谷 癒衣[ゆえ]。

今、夢の中で彼女と相対している桃は、ある重要な事実を知らないで居る。
波音と、いの。彼女達も、そうだ。アイアン・メイデンという名でまかり通っていたので、彼女の真[まこと]の名を知ったのは、正しく最後の瞬間であった。
彼女の最愛の人、朽木白哉が発した、一言によって。
癒衣…、と。そう、呟いていたのである。故に、彼女の姓が日番谷である事をまだ知らないのだ。
それは、日番谷冬獅郎が懸命に隠し続けた、悲しい事実。これが後に、大きな波紋を生む事となる。

何にせよ、桃の脳裏に浮かぶ光景は、例え夢の中でも、癒衣の最期の姿に他ならない。
別れ際、彼女は深い笑みと共に、こう言った。

“…ありがとう…!”

彼女を救おうと、前に進み。されど、彼女が身を呈して、この命をつなぎ止めてくれたというのに。逆に、ありがとうと言われた。

桃の閉ざされた瞳から、涙が伝う。
心の傷は、癒えるどころか日に日に増していき、日常生活さえも間々ならぬ状態なのだ。

「…桃!」(たつき)
「桃ちゃん!!」(織姫)

体育会系の友と、天然キャラでありアイドル風の友の声に呼び寄せられて、桃は、弾かれた様に目を覚ました。
目を覚ますと、そこは彼女が通う高校の校舎であり、今床に伏せているこの場所は、当然、保健室だ。

「あれ?…私……」(桃)
何故、保健室に。
虚ろな目で彼女達を捉えた桃に対して、友人二人はこうなった訳をきちんと話してくれた。
「覚えてないの?あんた、体育の授業中にボールをほぼ顔面でキャッチして、そのまま気絶したのよ?」(たつき)
「桃ちゃん、大丈夫?」(織姫)
そうだったのか…。
桃は、未だに判然としない様子で、この状況を受け入れている。
要は、無気力なのだ。
何をするにしても、最近では、いつもこう。

この日も、一向に気分が晴れぬまま、友と別れ、一人、下校した。

傷付いている筈なのに、自然と足が向いてしまう場所。
彼女達がルキアと初めて出会い、誘われる様にソウル・ソサエティへと旅立った、例の公園。
彼女は今、その場所に来ている。
此処から全てが始まり、全てが終わった。
いや、終わっているのかさえも微妙だ。心が、何一つとして満たされてなどいないのだから。
何かを、変えたくて。
いつも此処に来てしまうけれど。
何も、変わらない。

「此処に来ても、仕方がないのに……」(桃)

思い出す。
この場所で、堪えがたい結末に絶望し、三人肩を寄せ合いながら、泣いていたあの時を。
会いたい。けれど、会えない。

頑なに再会を拒む、桃の前に……。
この場所で。

奇跡的な出会いが、舞い降りたのだ。
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