-短編-
□失いたくない(完結)
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「失いたくない、雛森の事」
真っ直ぐにこちらを見つめる瞳に映る光が、眩しく思えて。紅桜は、目を細めた。
「そうですか・・・。少し、辺りを見回って来ます。桃さんの事を、お願いします・・・」
「ああ」
風が、優しく吹いていた。横になっている桃の髪も、その風に誘われて、なびいていた。
思えば、こんな風に。静かな時間を過ごさずに、ここまで突っ走って来たから。
一旦一人きりになって、絶望して、でも死ねなくて。だから誰よりも強くなって、追い求めたあの人に、手を伸ばしたくて。
でも、結局。届かずに、終わってしまうかもしれない。
「雛森・・・」
それを分かっていながら、引き返さない自分が居る。自分でも、よく分からないのだが。
「俺が迷ったら、お前はまた・・・」
恋次、松本。お前達を失ったら、俺はキツイ。悲しい。立ち直れないかもしれない。・・・けど、どっかで折り合いをつけて、俺は進むかもしれない。例えば血ヘドを呑んででも。
雛森を、失ったら・・・―?
「つっ・・・!!」
その先を、考える事は出来なかった。
「冬獅郎さん?」
不意に、紅桜の声が聞こえて。シロちゃんは、急いで顔をあげた。
「少しでも気分が楽になりそうな物を・・・」