<main>BLEACHオリジナル小説 -長編- 第二章

□future〜第二章〜(前編)動揺・不協和音編
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開けてしまった、深い闇。


失意の清音の数歩先に、もはやいる筈のない、志波海燕が立っている。
ゆらゆらと浮かぶ数多の御霊が、ざわめくように、彼等の周囲と、水面の上を漂っている。
「副隊長……!!」
やっと、会えた。
この閉ざされたような空間の中で、清音は、何の疑問を浮かべることもなく、喜びの―、けれど、消え入るような声を出した。
「辛かったな…」
その意を、まるでくみ取るかのように。
彼が、清音を優しく抱き寄せたのだ。清音の瞳が、感極まったように揺れる。
感じてはいけない温もりが、恐ろしいほど、清音を包む。
「俺も、辛い」
「え……?」
予期せぬ言葉に、清音は、のろのろと顔を上げた。
「お前達を残して、逝きたくはなかった……!!」
それが、苦悶の表情と言わずして、何と言おうか。
清音は、もっとも見たくはないものを、その目に焼きつけたのだ。
後悔なんて。
一番、望んでいなかった。
一番…―、見たくはなかった。
それなのに。
清音の瞳に、何か、とてつもなく薄暗いものが宿る。
「俺は、無念だ……!!もっとやれること、やりたいことがたくさんあった…!!清音…、もう、お前の好きにしていい」
それは、甘い、一種の呪文のような。
「お前がやるべきこと…分かるだろう?」
ふらりと、清音が進む。
あれほど望んだ彼の胸を離れて、清音は、安魂室を出て行く。
もはやその瞳には、何の色も無かった。

そうして清音の姿が消えていくのを、志波海燕―、ではなく、その姿を成すエンヴィーが、にたりと、怪しく笑い見つめていた。



      + + + +



その頃、四十六室から、夜一と共に戻っていたマタムネ。
直感めいたものを感じたのは、正しくその時だった。
「マタムネ?どうした?」
急に、マタムネは足を止めた。それに対し、夜一が不思議そうに問いかける。
「夜一さん…」
どう、説明したらいいか。
何故、今自分の中で、明らかな警鐘が鳴ったのか。それは、マタムネにも全く分からない。けれど、確かに五感に告げるものがあったのだ。
「…いますね。この中[瀞霊廷]に、皆さんとも、ましてや虚[ほろう]でもなく、桃さん達とも違う……―」
別の、何かが。
瞬時に頭を過ったのは、こちらに来る前に遭遇した、あの三人。
瞬間、マタムネは駆け出した。
「マタムネ!?」
驚く夜一に、マタムネは足を止めずに振り返る。
「急ぎます!!桃さん達のもとへ!!」
が、突如として、思わず足を止めるほどの激痛が、マタムネを襲った。
「つっ……!!」
思わず、その場に膝をつく。
「マタムネ!?どうしたのじゃ!?」
言葉も発せず蹲るマタムネの脳裏には、数多の光景が浮かんでいた。

それは…―、まさかの、光景。

まだ柱になりたての癒衣と、白哉が心通わせている光景。
楽しげに話している場面もあれば…、そうでない場面もあった。
癒衣が、人知れず、泣いている瞬間も。
最後に、全く違う情景の中、誰かと誰かが強く手を握り合っている場面だけが流れた。
そのどれもが、何処か断片的に、急速に、マタムネの脳裏を駆け巡っていく。
もはや制御不可能な己のそれを、マタムネは、止まぬ頭痛と共に見ていた。
けれど…―。
これまた不思議だが、周囲から癒衣の話は聞いていても、一切彼女の顔も知らなければ、会ったこともないのに。
白哉と話す彼女が、あるいは、人知れず泣いている、その少女が…―。
癒衣であると。
確かに、そう確信が持てたのだ。
否、そう何かに告げられた…と言ったほうが、正しいのかもしれない。

「マタムネ!!」
夜一の言葉が、必死にマタムネをひき戻していく。
一通りその余波が通り過ぎて、マタムネは額に汗を浮かべながら、何とか呼吸を整えた。
何故、今、こんなものが自分の中に。
疑問は絶えず止まないが、それよりも今、何よりも大切なものがある。
「桃さん…!いのさん…!波音さん…!」
彼女達が、危ない。

風向きが、またひとつ変わろうとしていた。
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