-短編-

□桜は咲くから(完結)
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ソウル・ソサエティ、流魂街にて。
普段であれば滅多に姿を見せない筈の上客が、一人。
とある一軒の廃屋の前で、立ち尽くしていた。
護廷十三隊・十番隊隊長、日番谷冬獅郎。
彼がこの場所に足を運んだ理由は、ただ一つ。
数年前、たった一人の姉と。
この家で貧しいながらも日々を過ごし、生き別れたからだ。
その他の面でも、実に厳しい現実に見回れたけれども。
幸せだった事を、覚えている。
姉の笑顔を、覚えている。あの頃は、一緒に居る事が当たり前だったから。
突然、別れが来るなんて。
思いもよらぬ事だったのだ。
姉が柱となる為家を去った後、彼もすぐにこの家を出た。
当然手入れなど誰もせずに今日まで放置していたので、元々頑丈には程遠い小さな家は、あっという間に朽ちてしまった。
「すっかり変わり果てちまったな、この家も…―」(シロちゃん)
改めて近付き、手を添える。剥き出しになった板は腐り果てていて、瞬時に崩れた。
不意に、姉の最後の姿が目に浮かぶ。
生き別れて、柱となった姉と、ようやく出会えて。
遂に。
…―死に別れてしまった。
分かっている。
選んだのは、自分だ。
覚悟を決めた姉に手を差し延べなかったのは、自分だ。
ああ、それでも。
悲しい。
この家が、語る様に。
もう二度と、戻らない。
「姉さん…―!!」(シロちゃん)


“シロちゃん”


決まって、彼女の声が。
張り裂けてしまいそうな彼の心を、救うのだ。
シロちゃんは徐に顔を上げて、弱々しくも足を進めた。
別の場所へと、向かう為に。
桃が桜を咲かせた、あの場所へ…―。

忘れない。
忘れられない。

姉の事も、あるいはそれ以上に、桃の事も…―。

どうしようもなく、忘れられないのだ。
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