君を想う

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「まぁ、コレが文化祭前日の話だな。」

「桐原さんも怖いけど、それをネタに絵を描くシキにぃも怖いよ!」

雪は、少し涙目になって俺に訴えてきたが、気にしないで置く。

「うっせーな、でもそのおかげで俺は、出品したコンクールで優勝したかな。」

「こんな人と血が繋がっていると思うとゾッとするよ。」

「はっむしろ褒め言葉だな。」

 雪は俺そんな事を言っても意味の無いものだといつまでたっても気付かないらしい。
変なとこで勘が鈍いのは、春乃さん譲りか? そんな事を考えていたら雪が俺に聞いてきた。

「なんで、桐原さんはリスカなんてしてたの?」

「アイツは、作品に行き詰ると自傷癖がでるらしい。本人曰く、血を見るとイメージがわいて、生きているうちにいい作品描かなくちゃっと思うんだと。」

雪は、理解できないのか、首を傾げ考えていた。

まっ小学生にこの考えを理解しろと言う方が無理なのだと思う、いや無理なのだ。
その当時の俺も理解できなかった。いま思うと、その考えが理解できる。

ムラサキは、子供っぽいとこもあったが、他の同級生たちと比べようが無いほど大人な一面があった。

「ねぇ、シキにぃ? 桐原さんとすっごく仲良かったんでしょ?」

「あぁ、それがどうした?」

「今では会ってないの? 昔はほとんど一緒いに居たんでしょ? でも、この家には、ボクかお母さんそれか、美術商の人しか来ないよね? なんで、桐原さんは来ないの?」

さっきまでの、純粋に話を聞く様子ではないらしい。昔から雪は、気になったものはとことん追求する性格だ。

この答えを聞くまで今日はなんと言おうと帰らないだろう。
でも、俺も素直に答えてやる義理も無い。

「雪、人には聞いてほしくない過去ってものがある。俺にとってそれは聞いてほしくない過去だ。」

「なんで、そんなに仲良かったんでしょ? 桐原さんの話している時のシキにぃ今までに無いくらい穏やかだったよ。」

真剣な顔で雪が俺に言ってくる。どうやらいつもの脅しは聞かないらしい。
でも、俺はまだ話すのに心の整理がついていない。
 チラリと雪を見たら俺が答えを出すのをジッと黙って待っていた。

「わりぃ、雪。今は話せない。明後日には、必ず話すよ。だから、今日は帰ってくれ。」

「うん、分かった。必ず、明後日だよ。明後日にまた来るからね。」

「あぁ」

そう言って、雪は帰っていた。

俺は、雪の背中が見えなくなってまた絵に向き合った。でも、描く気が起きなかった。

 そのまま、後ろに倒れこみ天井を見上げた。別に何かを考えている分けではない。
ただ、無心になりたかった。俺は、そのままソッと目を閉じた。




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