君を想う
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ムラサキは、鼻歌を歌いながら自分の絵の前に立った。
「ウタちゃん、今からアタシが何をしても黙ってみててね。」
「はぁ、どういう意味だよ?」
ムラサキは、さっきまでの能天気さは消えていた。
俺は、その問いの答えを聞かなくてもムラサキの行動で言った意味が分かった。
ムラサキは、小さなカッターを出して自分の左手首にそれを当て力をこめ肌に刃の部分を食い込ませスライドさせた。簡単に言うならばリストカットだ。
いつも隠れている手首を見れば無数のリストカット痕があった。ムラサキの白い肌にはその傷跡は良く映えていた。
俺は、その光景を唖然として見ていた。ムラサキの顔を見てみると、いつもの冷え切った目をしてその傷をジッと見つめフッと笑ったと思ったら、さっきまでイメージわかないと叫んでいたとは思えないほどのスピードで絵を描き始めた。
俺は、その光景に見入っていた。
いきなりリスカをやったムラサキへの驚きとかで固まった分けではなく、血が流れることも問わずに一心不乱に絵を描くムラサキの姿がただ、美しかったのだ。
時おり、左腕も動かすのでまだ固まっていない血が舞い、床に付いた血は流れてすぐのルビーの様な赤ではなく、赤黒ずみまるで、黒薔薇の黒蝶の花びらの様だった。
「ふぅ〜終わった。ってウタちゃんが終わって無いじゃん!」
「えっあぁ、そうだな。」
「もぉ〜早く終わらせてね。アタシ、お腹空きすぎで死にそうー」
「あぁ、すぐ、終わらせるから待っとけ。」
俺は、意識をさっきの光景に囚われたままだろう。でも、さっきの光景のおかげでこっちのイメージもしっかりした。
さっきの光景を鮮明に思い出せるうちに絵を描いてしまおう。たかが、学校の文化祭の絵だと言って手を抜いて描いていたが、気が変わった。
今度のコンクールにも出品するやつとして描こう。あの、鮮やかなルビーの様な血の色の薔薇をそして、赤黒い黒薔薇の黒蝶の様な血の色の薔薇をそして、それに埋もれている雪の様に白い肌の女の死体を・・
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