君を想う

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 バタバタと騒がしい音が聞こえてくる。雪が学校を終わらせて来たのだろう。

あぁ、もう夕方になっていたのかまた、時間を忘れていたらしい。

「シキにぃーってあれ、居ない?」

元気のいい声が、隣から聞こえてくる。
俺は、動くのがめんどくさかったから、隣の部屋の方を向いて声を掻けてやった。

「隣の部屋に居る。」

隣のアトリエからゴソゴソと音がして、こちらの扉がガチャリと開く音がした。

「此処って、倉庫じゃなかったんだ。」

そういいながら、雪が部屋に入ってきた。
まぁ、そう思っても仕方ないだろう。この部屋は滅多なことがないと入らないし、雪には入るなっと言っていたしな。

「これって、シキにぃの絵?」

雪は、自分の何倍もある大きさの絵を眺めながら言った。
あの体制だと絶対首が痛くなるだろう。

「そうだな。俺が高校のときから描いてる絵だ。」

「高校のときから? じゃあ、もう4年前からだね。でも、何か、いつもの絵と違うね。」

雪は、呆けたように聞いてくる。
まぁ、そうだろう。俺の絵を知っている人が見れば、かなり驚くだろう。この絵には全く狂気的な要素が無いからだ。

「あぁ、もう4年も前なのか。」

「でも、この絵なんか変だね? 下半分はほとんど完成してるのに、上半分は全く完成してないよ? それに、描き方が違うね。」

雪の言ったとおりこの絵は、下半分はもう完成しているだろう。
なのに俺はしつこく手をくわえている。全く完成していない上半部には全く手をくわえていない。

「上半分は・・俺じゃあ描けないんだよ。」

「えぇー何で?」

こんな時ほど、子供の純粋さは憎いと思う。

俺は、心の中で負の感情が渦巻くのを感じて、その感情を押さえ込んだ様な声で俺は言った。

「それより雪、良いのか? 今日は、話聞かなく。」

「・・聞くよ。桐原さんのこと教えてね。」

俺がいきなり話を変えても深く追求されなくて良かった。

まだ、俺はこの絵のことを平気な顔をして話せる自身が無かったから。
この点では、雪が普通の子供より勘の良い子で助かった。

「そうだな、今日は文化祭までの話をしよう。」

「当日の話じゃないの?」

「俺とムラサキは、美術部だったから、前日まで方が文化祭って感じだったんだよ。」

「うん、分かった。早く聞かせて!」

雪は大人しく俺の横に座って聞く体制をとった。
俺は、筆を動かしながら語りだした。


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