番外編&短編

□色
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 午後の授業をサボって旧校舎の音楽室が俺のサボり場だ。
誰も近寄らないし、嫌なものを見なくてすむここはいつしか俺のお気に入りの場所となっていた。
長年使われていないと思っていたピアノは不思議なことにちゃんと調律してあって綺麗な音がでる。それも気に入っている。

 俺は、気ままにピアノを弾いた。
何かの曲とかではなくてただ気ままに弾く。
軽快な音ではなくてちょっと暗い音

「綺麗な音でも色は暗い」

 ふっとそんな声が窓の外から聞こえてきた。
俺は、弾くのをやめて窓の外を覗いたら女子生徒がベンチに座って居た。
 どうやらあっちはこっちに気付いていないのか、また何か呟いた。

「あれ? 終わちゃった。あぁ、残念だな、もっとあの色見ていたかったのに・・・」

 俺は彼女の"色"と言う言葉を聞いて堪らず声を掻けてしまった。
俺の勘が外れていなければ多分彼女は俺と同じだ。

「それってどんな色? 暗いいんじゃなかったの?」
「えっ?」

 聞こえているとは思っていなかったんだろうか彼女は驚いた顔をして俺を見ていた。

「共感覚者・・・私以外の人はじめて見た」
「俺もだよ。で、俺の曲はどんな色だったの?」

 あぁ、やはり俺と同じだ。
短い人生だけどその短い人生で一番俺は歓喜にふるえているだろう。
やっと俺の理解者が出来るのだろうと・・・

「暗い色よ。でも、澱んでいるわけじゃなくて綺麗な色よ。そうね、ダークブルーみたいな色かな。ねぇ、私は何色なのかしら?」
「そうだな、コーラルピンクかな」

 俺がそう言ったら、彼女は花が咲くように笑った。

「ありがとう。こんな話をして気持ち悪がられないのは初めてよ。とっても嬉しいわ」
「そうか、俺も初めてだよ」

 本当のことだった。
子供の頃はこれが普通だと思っていたからお友達に話したら変な目で見られた。
それから、これは俺だけだと気付いたら自然と誰にも言わなくなった。
でも、感じるものは感じるから誰にも言えないのは辛かった。
だから、誰かとこの感覚のことを話せることは嬉しかった。

「貴方は・・・」
「えっ?」
「貴方は、スカイブルーだわ」

 そう言って彼女は、ふんわりと笑った。
俺はその笑顔を見て泣きたくなった。初めてだったからこんなにも嬉しい気持ちは・・・

 校舎のほうでチャイムが鳴った。
あぁ、もう戻らないとでもこの顔ではしばらく戻れないだろう。
次の授業もまたサボろう・・・

「あっもう私もう戻らないと、次の授業出ないと危ないんだ」
「そうなんだ。俺はもう一時間ここでサボるよ」

そう言って彼女は校舎に行こうとしたけど、またこちらに戻ってきた。

「もう一度会える?」

まさかそんな事を聞かれるとは思っていなかったからビックリした。
でも、それと同時にもう一つ大事なことを聞いていなかったことを思い出した。

「会えるよ。いや、会いたい。だから、名前教えて」
「詩音、如月 詩音。貴方は?」
「奏夜、月下 奏夜だよ」

 かなり遅れての自己紹介が終わって彼女いや、詩音は授業に遅れると言って走って校舎の方に消えた。

 初めて自分たちを理解してくれる人に出会った。
同じ苦しみを味わって、同じように自分を押さえ込んで生きていた。
でも、彼女に、貴方に会えたてその苦しみが無くなった。
今まで押さえてきた分を二人で解放していこう・・・






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