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□In Mirror World
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[認識は]

「お前の妄想だ。」
「そうですよ、きっと寝ぼけていたんですよ。」
 旅の仲間二人に否定されても、私は先ほどの出来事が、私の幻覚だとは思えなかった。
 彼女が鏡に映るのは、今日が初めてではなかったし。
 ドレッサーを覗いても、彼女はもういない。
 でも何だか怖いので、レオナールとフェリオには私の部屋にいてもらっているのだ。
「でも、本当にいたんだよ?」
「はいはい。」
 レオナールはまともに私の話を聞こうともしない。
 唯一の味方であってほしいフェリオも、苦笑いを浮かべている。
「本当にいたんだよ。こうやって――。」
 私は鏡を覗き込んだ。
 今、鏡に映っているのは私。
 だけど。
「リズさんがちゃんと映っていますよ。」
「けど――。」
 じっと鏡を見つめる。
 すると、私の虚像に、朧げに他人の輪郭が重なって――。
 あぁ。
 私は寒気を感じた。
 彼女が、私の虚像を溶かして成り代わる。
『あなたはだれ?』
 二度目の問い。
 今度は、叫ばなかった。
 鏡越しに伺うフェリオの反応は、大変青ざめている。
「貴女こそ、誰?」
 震える声を抑えて、私は問いかけた。
『ツキミヤ・カノン』
 ツキミヤ・カノン。
 鏡の中の彼女は、たしかにそう言った。
『あなたは?』
 彼女は答えてくれた。
 だから私も答えねばならない。
 口の中がからからで。
 だから私は無理矢理唾を飲み込む。
「リズ=マリィ・ウォルター。」
『リズね?』
 彼女は眉すら動かさない。
 無表情のまま。
 凍った表情のまま。
「貴女は何者なの? 鏡の中に住んでいるの?」
『あなたこそ、鏡にいるのではないの?』
 彼女は無表情。
 だからそれが嘘か本当か、見極められない。
ふと気付いたら、私の背後にはレオナールがいた。
 私の肩越しに鏡を覗き込んでいる。
「――お前はこいつに危害を加えるつもりはあるか?」
『滅相もない』
「ならなぜ鏡の中に現れる?」
 その瞬間。
 それは、私の気のせいだったかもしれない。
 だって彼女は無表情だから。
 でも。
 彼女は、とても切なそうな、寂しそうな表情を浮かべた。
『理由があるとしたら、私は友達がほしいの』
「胡散臭い。」
「待って。」
 私は鏡の中の彼女に問いかける。
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