小説U

□手紙
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いつか大好きな君に届け、僕の思い


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音無さんへ、お元気ですか?
そちらの世界は今どの季節ですか?
こちらは今冬で昨日から雪が降り続いてます。
寒くて、寒くて凍え死にそうです。
あなたの隣りはあんなに温かかったのに。
もうその温もりさえも忘れてしまいそうです。
だから早く会いたいです。

この間音無さんの名前を思い出せなくなって、とても怖かったです。
必死であなたの面影を探して、泣きながらやっとグラウンドの中心に来た時に思い出しました。
気付いたらそこから動けなくなっていました。
ここを離れたらまた忘れるんじゃないかと心配で不安で…

でも音無さんは僕がこんなに不安で震えているのに傍にいてくれないんですよね?
もう抱き締めてくれないんですよね?

僕はこの先どうすればいいんでしょう?
初めて僕を認めてくれた、憧れだった、大好きだったあなたを失って僕は…

音無さんの所に行きたいのに行き方が分からないんです。
誰も教えてくれないんです。
音無さんなら知ってますよね?
僕をあなたの所に連れて行ってください。
そのためなら僕は何でもします。
痛いのも、苦しいのも、辛いのも、泣きたいのも全部我慢します。
だから傍にいさせてください。

この声が枯れるまで、この手が動かなくなるまで何度でもあなたに伝えます。
大好きです。
愛してます。
世界で一番好きです。
死ぬほど愛してます。

どうして紙に書くとこんなにも薄っぺらになってしまうんだろう?
僕の音無さんへの思いはこんなに大きくて熱くて愛しい気持ちで一杯なのに。
どうして上手く伝わらないんだろう?

そもそもこの手紙は何処に送ればいいんだろう?
音無さんは今何処にいるんですか?
教えてくれたら直接この思いごと手紙を届けに行きます。
だから待っててください。
僕があなたの所に行けるくらいに立派になるまで。


            直井文人より

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もう何百枚目かになる手紙を書き終えて僕は久しぶりに寝ることにした。
部屋はもう白い封筒と便箋で埋まっていたが、辛うじて分かるベッドへと紙たちを押し退けて横になった。
あの日から書き続けた手紙は無くなることは永遠にないのだろう。
僕の思いを代弁してくれる手紙は増える一方だ。
一通だけでいい、あなたの所に届けばそれでいいんです。
ただ読みにくかったらすみません。
文字が滲んでるかもしれません。
字が歪んでるかもしれません。
それでも僕の精一杯の思いを読んでください。
いつか届くその日まで僕は諦めません。




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