僕が幻術を凪に教わって、何とか有幻覚も操れるようになった、
そんな矢先だった。
綱吉が事故にあったと聞いて、急いで搬送先の病院へ行った。
綱吉はベッドの上に横になっていて、その体には人工呼吸器などの機械が大げさなほど取り付けられていた。その様子から、いやでも彼が重体だということを悟らずにはいられなかった。
底知れない不安を感じて綱吉の名を呼ぶ。
しかし彼はぴくりとも動かなかった。
彼の手を握り締めてどれくらいたっただろう。
病室に入ってきた人の気配に、僕は振り返った。
そこには真っ黒な死に神が立っていた。
「脳死」
そして彼は一言告げたのだ。
―――僕の心に絶望を。
Dear you さようなら、愛しい君へ。
横たわる彼はまるでなんとも無く、ただ眠っているだけのように見えた。
ほんとうに、ただ眠っているだけのように。
頬はうっすらと色づいているし、なにせ体が温かかった。
信じられない、彼がもう目覚めないだなんて。
すぐにでもその目を開いて、僕の名を呼んで、優しく微笑んで、
僕を包んでくれそうなのに。
―「脳死」。
しかしそういったあの死に神の言葉が、僕の脳裏によみがえる。
ぼくをおいていったのか?彼が?
…………………うそだ
そんなはずがない!ありえない!僕を独りのこしていってしまうなんて!
絶望に打ちひしがれた。
そのとき、朝日がカーテンの隙間から差し込む。
彼を連想させる優しい光の指す方向を追って、僕の視線は一点に固定された。
床頭台においてある、真っ白な封筒に。
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