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「あ〜、やっぱり切らしてるな…」
洗面所の棚を開け小さく呟く。
朝、久しぶりにいる野分に起こされ…洗面所に促された弘樹。
まだ覚めない頭も冷たい水のおかげですっきりする。
そのまま手を伸ばし歯ブラシを掴むはずが空を切る。
「あ?」
自分のコップを見ると、昨日まで使ってた歯ブラシがない。
(あ゙〜昨日、捨てたんだった…買うの忘れてた)
記憶を思い返しながら、キッチンに足を向ける。
「野分〜」
キッチンで朝ご飯の準備をしていると、ヒロさんがひょっこり顔を出した。
「はい、ヒロさん。」
準備の手を止めてヒロさんの方に顔を向ける。
「歯ブラシ貸して〜」
「はい、どうぞ…・・・え?」
ヒロさんがあまりにも普通に言うから、普通に笑顔で返事してしまった。
けど、歯ブラシってこんなに普通に貸し借りするものだっけ。
いや、別にヒロさんに使われるのが嫌とかそういう気持ちは全く無いし、そんな事を気にする以前にイロンナ事してるし…。
でも、普通は恋人でも嫌だよな…。いやでも…ヒロさんは別に気にしてないみたいだし…?
「どうした?」
固まってクルクルしてる俺を心配したヒロさんが近付いてくる。
十分に近付いたのを確認して腕の中に閉じ込める。
「俺…ヒロさんの愛を凄く感じました。」
「は?どこにンなもんあったんだよッ!」
叫び返すのが、腕の中から抜け出そうとはしない。
それも目茶苦茶嬉しい。
今が朝でこれから仕事じゃなきゃ絶対にヒロさんとイチャイチャするのに…。
「俺、ヒロさんが好きです。大好きです。愛してます。」
たとえ家族でも歯ブラシを共有して使うとこはあまり無いと思う。
だから、家族よりもヒロさんのテリトリーに踏み込めた気がして…
むしろ、テリトリーとかそんな枠も何もないって言われてるみたいで…
とてつもない一体感を感じる。
「野、分…いい加減離せ遅刻する!」
確かに時間を考えればゆっくりしてる時間は無いから、しぶしぶ愛おしい温もりを離す。
離れたヒロさんは、やっぱり顔が赤くて…少し俯きながら洗面所にかけて行った。
俺もその後を追いかけ、ヒロさんの歯磨きが終わるまでずっとニコニコ(弘樹からしたらニヤニヤ)しながら見てた。
これから当分は歯磨き中にヒロさんを思い出すだろうー
テリトリー...end