純情エゴイスト
□メールは最後まで確認するべし
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「は?」
思わず携帯を持ったまま固まってしまった。
帰る準備をしていた弘樹のもとに来た一通のメール。
送り主は野分。
何かと思って急いで確認すれば、
『trick or treat』
と、ただその一文だけのメール。
思えば、今日は10月31日でハロウィンだ。
”trick or treat”訳を言えば、『お菓子をちょうだい…くれなきゃ悪戯するぞ』だ。
「あいつ、お菓子でも欲しいのか?」
この歳にもなって…と思うが、野分は小児科医だ。
ハロウィンに浮かれた子供達に触発されたのかもしれない。
(帰りにお菓子でも買って帰るか…。ついでに買い物もしないとな。)
帰り道のプランを考えながら携帯を閉じた。
この時、(まだまだ野分も可愛いなぁ)とか考えないで、下に続く空白に気付いていれば良かった、と…後々後悔する上條弘樹だった。
ハロウィン当日の夜ともなれば、お菓子やら何やらは半額セール。
その半額セールに負け、酒も購入してしまった弘樹。
家に帰ると、時間はすでに9時を回っていた。
いつもなら、ご飯は抜くとこだが…今日は野分が帰ってくる可能性がある。
だから、スーパーで買ったレトルトを温めて晩御飯にする。
そのまま、ゆったりと風呂に入る。
火照る体を冷ますために、ソファーに寝そべり本を読む。
「…ヒロさん、……ヒロさん…ッ!」
暖かい声とゆさゆさと肩を揺すぶられる感覚に目が覚める。
「今、何時?」
「ちょうど11時半です。」
(何時寝たのか全然覚えてねー)
とりあえず、野分にご飯を用意するため起き上がろうとするが・・・。
「野分、ちょっと離れろ…動けねーだろ?」
上から覆いかぶさるような体制で野分が押さえている為動けない。
手に力を入れてもびくともしない。
(…この馬鹿力がっ!!)
弘樹がささやかな抵抗をしている間、野分はずっとニコニコしていた。
「ちょ、ぉい!…なんなんだよっ」
「ヒロさん、何か忘れてませんか?」
怒鳴る弘樹に何かを期待したようなウキウキした顔をする野分。
「あ?…ぁー・・もしかしてハロウィンか?」
いったん言葉を切り野分を見ると、目を輝かせて首を振る。
「そんな対したもんじゃねーけど、用意したぞ?」
そう言うと野分は体を退けた。
弘樹は、ソファーから降りて冷蔵庫に向かう。
その後ろ姿を野分がニヤついた笑みで見送っていた事に気付いていれば・・・。
「それじゃ、改めまして…!
ヒロさん…
『trick or treat!!』」
妙にニヤつく野分に引っ掛かるが、とりあえず買ったお菓子と酒を渡す。
「ほい。これでいいだろ?後、これ酒。」
野分はお菓子と酒を受け取るが、すぐにそれを弘樹の胸に返す。
「ヒロさん…俺はアルこと以外のお菓子は食べないってメールにきちんと書きましたよ?」
弘樹の手を引いてソファーに導き、そのまま押し倒す。
「は?ちょ、なにッが…?」
野分は携帯を取り出し、弘樹に送ったメールを見せる。
それは、弘樹が見たメールの内容と同じ。
『trick or treat』しか書かれていない。
が、野分はそこから行を下にさげる。
しばらく空白が続いてから黒いものが上がってきた。
(お、おおお俺は信じないぞっ!!)
それは、ハートから始まり内容は・・・
『あ、ちなみに…
俺は、ヒロさんが口移しでくれる物しか食べませんから!!
何か反対意見があったら言ってください。
もし、次のメールの返信で反対意見が記載されなかった場合…肯定と受け取りますから。
ヒロさんは、恥ずかしがり屋さんですから…メールが返ってこない場合も肯定と判断しますね。
じゃ、夜を愉しみにしてます』
もちろん最後はハートで終わっていた。
しかも、携帯の画面を見ないように必死に目を背けていた弘樹の為に野分はメールの内容を音読で教えてくれた。
「ヒロさんは、返事を返してくれなかったんで…口移しで食べさせてくれるんですよね?」
それは、もう…かなり…素晴らしいくらいにニコニコ笑顔の野分。
ベットに押し倒されている状態の弘樹は身動きが取れず、打開策を探すも上手く切り抜ける事は難しそうだ。
「さーてヒロさんどうします?」