純情エゴイスト
□伸ばした手の先は…
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伸ばした手が、届かなかった夢を見た。
自分を追いかけていたはずの背中は、いつの間にか歩みを同じにしていた。
「俺はヒロさんが大好きです」
そう言ったあいつは、手を繋いでくれた。
まるで、一緒に歩こう…と言うかのように。
最初は、ただ嬉しかった。
でも、時間が経つにつれ怖くなった。
同じく歩いていたはずの脚は、いつの間にか前を歩いていた。
繋いだ手は変わらず暖かいままで…。
でも、逆に虚しく感じてしまう。
開いた距離は縮まらず、心にまで距離をつくってしまう。
(野分…)
音に出来なかった言葉…。
惨めな自分を見られたくなかった。
いつの間にか前にある逞タクマしい背中。
まだ終わりの見えない道と先の見えてしまった道。
あいつに気付かれる前に、この愛おしい手を離さないと…。
枷にだけはなりたくない。
繋いだ手をするりと離して、振り向くあいつに静かに微笑む。
「大丈夫。」
努めて柔らかく言うと、あいつは時間の波に押されながら前へ進んでいく。
手は…
もう、伸ばしても届かない。