純情エゴイスト

□心と体
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次の日、野分は夕方に帰ると連絡が入っていた。

弘樹はセンターに向けた試験の準備の手伝いのため大学に来ていた。

「おぉ、上條―!あけおめ〜」

部屋で一足早く仕事をしていた弘樹に、いつもの調子で抱き付いてくる宮城。

弘樹は溜息を零しながら挨拶を返す。

「あけましておめでとうございます、宮城教授。」

「ったく、冷たいな上條〜」

いつにも増してニヤニヤした笑みを浮かべる宮城に、弘樹の眉間に皺が寄る。

「なんですか、教授」

「いやぁー?新年早々お熱い夜を過ごしたのかなーと思ってさ?」

弘樹の首元を指しながらニヤつく宮城とは対象に弘樹は一気に血が引いていく。

そして、宮城を押しのけトイレへと駆け込む。

幸い弘樹以外に人はおらず、弘樹は自分の首元を確認する。

多少薄くはなっているが、それは確かにキスマークだった。

思わず痕を掻き毟る。

足に力が入らない。

(これを付けたのは、野分じゃない。)

隠しようのない痕に、自分が野分のものでは無いのだと言われているようで、無性に悲しくなった。

掻き毟った痕が、ミミズ腫れのようになるがキスマークは消えない。

何かが壊れる音が聞こえる。

(全てが夢ならいいのに。)

その後、気付いたら仕事を片付け夕方になっていた。

家に向かう足取りは遅い。

ある意味、首に付いたキスマークは話す上で都合がいい。

それなのに、どうしても野分には見られたくなかった。

気づけば、女物のファンデーションを首に塗り隠していた。

そんなもの風呂に入れば落ちて、その場しのぎにしかならない事はわかっていたのに。

(なんで俺はこんな事をしなくちゃいけないんだろう。
そうだ、野分を助ける為だ。
野分を幸せにする為なんだ。)

自問自答を繰り返し、自分に言い聞かせる。

部屋に付き、ソファーに座ると、静かな部屋に秒針の音が響く。

カチッと時を刻む度、何かが重くのしかかる。

頭の中では、別れ話のシュミレーションをしているはずなのに、何度別れようと呼びかけても、頭の中の野分は優しく微笑んで愛してますと囁く。

もう、ハラハラと落ちてくる滴を止める事が出来なかった。
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