純情エゴイスト
□心と体
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「もしもし、弘樹か?」
弘樹が話すより先に離し出す秋彦。
久しぶりに聞いた幼馴染の声は、どこか安心した。
「おう、元気か?」
いつもと変わらない弘樹に盛大な溜息をこぼす秋彦だが、昔は逆だったな、と秋彦の小言を聞き流しながら弘樹は静かに微笑んだ。
「なぁ、秋彦・・」
言いかけて止まった弘樹に秋彦は優しく促す。
「どうした?弘樹。」
その優しい声に全てをはき出しそうになる。
だが、甦る真貴の声が結局は本音を奥底に隠してしまう。
「いや、母さんが餅を送るって言ってたから、お前のとこにも届いてるかなって思ってよ。」
「あぁ、元旦に届いたよ。お母様にお礼の電話は入れたんだがな。」
「あの人、自分の息子より先にお前んとこに送るとかどうなってんだ、ったく。」
努めて明るい声を出し、くだらない事を話して会話を終了させる。
「はぁあ・・・」
思わずソフォーに座り込む。
目を閉じれば聞こえるのは真貴の声。
あいつは、たった一つの財団を潰す事が簡単だと言っていた。
今思えばあれは秋彦のことを言っていたんじゃないだろうか。
あいつの権力を使えば難しい事ではないのかもしれない。
そう思うと、言葉が出なかった。
秋彦まで巻き込む訳にはいかない。
(俺だけで済むならそれでいい。迷惑は、かけたく無い。)
「野分…、俺はお前に幸せになってもらいたいんだ。たとえ、隣にいるのが俺じゃなくても。」
野分が帰るのは明日、それまでに野分が信じる嘘を考えなければいけない。
ただ別れると言っても野分は信じない。
理由を詳しく聞いてくるだろう。
留学する事になりましたとか?
大学の研究で、とか言えば納得するか?
いや、詳しい場所とか住所とか聞かれたり、最悪大学に問い合わせされたらアウトだ。
見合い話で結婚する事になったとかはどうだ!?
いや、見合い会場に乗り込んで来そうだ、それより両親に挨拶するとかガチで言い出しかねない。
やっぱり、他に好きな奴が出来たから別れるが一番ありがちな理由だよな。
「はぁ・・・、上手く出来るかな」
寝室に続く扉に向かいながら盛大な溜息を零す。
弘樹はどこか他人事のように現実味を感じられなかった。
あの過ちは確かに存在するのに、夢のようで。
ぼんやりと考えていた。