純情エゴイスト

□安堵の香り
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「ヒロさん、ただいまです。」

野分が家の扉を静かに開けたのは、深夜の3時過ぎ。

病院の新人歓迎会に参加(津森に連れられ強制参加)していたのだ。

珍しく次の日が休みだというのが、野分がこんな時間まで飲まされた理由だったりする。

元々酒の強い野分は津森に勧められかなり飲んだとは言え、ほろ酔い程度である。

野分自身、意識も足取りもしっかりしているつもりだ。

酒を飲み同僚や先輩・後輩と話しながらも、野分の頭の中を占領しているのはもちろん弘樹だ。

ちょうど次の日は日曜日なので弘樹も仕事が休みだ。

そのため野分の脳内は、明日は何をしようか、どこに出掛けようかなど、すでに浮かれていた。

だから、若干上の空で誰に何を言われたかなど覚えておらず気付いたら解散になっていた。

野分としては、ほろ酔いも助けて気分は最高潮だった。

真っ直ぐに弘樹の部屋に向かい、そのまま布団に潜り込んだのも酒の力があったからだろう。

弘樹を抱き込みそのまま寝る予定だったのだが、うとうとし始めた頃に弘樹によって蹴落とされた。

床に落ちた衝撃と蹴られた痛さに野分の目ははっきり覚めた。

「出てけ。」

弘樹の声は冷たく、顔を見なくても怒っている事がわかる。

「ヒロさん…?」

野分の呼びかけに返事は無く、ただ沈黙が響く。

野分は仕方なく弘樹の部屋から出て、リビングに行く。

ソファーに座り弘樹の怒りの原因を考えるが思い当たる事がない。

今日飲み会に行く事は事前に伝えており、弘樹からも「わかった」と返事がきていた。

そうすると帰ってきてから怒らせた事になる。

だが、帰ってきてから弘樹にした事といえば…勝手に部屋にはいって、布団に潜り込んで、抱きしめたくらいだ。

照れている、という事も考えられたが、あの怒り方と雰囲気は照れている時のものではない。

野分は、あれこれと考えているうちに寝てしまった。

翌朝、帰ってきてから風呂に入っていない事を思い出し、眠い頭を起こす為にもシャワーを浴びる。

「はぁ…」

(とりあえずヒロさんに謝って、理由を聞かなきゃ…)


 
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