純情エゴイスト
□誘われて
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M大文化祭。
弘樹が仕事の休みがたまたま被った野分を連れて、校舎内を見て回っていたところ、風船を持った着ぐるみと共に角がやってきた。
なんとなく嫌な予感がした弘樹は方向変えようとしたが、それよりも先に角に声をかけられる。
「上條せんせー」
名前を呼ばれ仕方なく顔を向ければ、にこにこと笑みを貼り付けている。
「せんせーお化け屋敷なんていかがですか?すぐそこなんですけど…」
断ろうとする弘樹よりも先に野分が反応し、暑い視線を弘樹に向ける。
「俺は入らないぞ!行くなら、お前一人で行け。」
そう言う弘樹に、野分より先に角が口を開く。
「もしかして…おばけ怖いんですか?」
ボソリと、だが確かに聴こえる大きさで言う角に弘樹の皺が深くなる。
角を睨んでから、お化け屋敷の方へと足を向ける。
「おい野分、行くぞ。」
呼ぶ声に元気に返事をして野分も後を追う。
「二名様ご案なぁ〜い。」
後ろで聞こえた角の声に弘樹の気持ちはさらに苛つく。
「キャアアアア」
「イヤァアアア」
「助けて!!!いや、だれか!ヤァッ!!!」
お化け屋敷の前に到着した弘樹と野分だが、中から聞こえる凄まじい悲鳴に足が止まる。
「ヒロさん、やめますか?」
止むことのない悲鳴の嵐に野分が声をかけると、弘樹は若干引いていた足を前に出し一気にまくし立てる。
「うるせーっ、行くぞ!!」
野分としては立ち止まった弘樹を心配しただけなのだが、結果的に弘樹を煽るものとなってしまったらしい。
弘樹は野分の手を掴み中へと入る。
入った瞬間に感じたのは、まとわりつくような冷たい空気。
ざわつく胸に、弘樹は掴んでいた手に力を込める。
それでも、鳥肌は治まらない。
ドライアイスでも使っているのか、視界は白く濁り前が見えない。
壁伝い進みながら、さっきまで聞こえて悲鳴がピタリと止んでいる事に薄気味悪さを感じる。
威勢よく入った弘樹としては、今さら怖いとも言えずひたすら足を進める。
だが、歩いているうちに一つのおかしい点に気付く。
中に入ってから、お化け役が脅かしに来ないのだ。
弘樹が振り返り野分に声をかけようとするが、そこに野分の姿はなかった。
「の、野分…?」
弘樹の声は、吸収されるように消えていく。