純情エゴイスト

□心と体
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ニヤリと笑う真貴が返事をする事はなく、弘樹は自分を見つめる真貴の真意がわからなかった。

それから三日間、真貴の行為は弘樹の許容限度を完全に超えていた。

今度は媚薬なんて使われなかった。

使う必要など無いほど弘樹の身体は、与えられる行為に快感しか生み出さなかった。

自衛本能がそうさせたのだとしても、弘樹は自分の浅ましい身体が許せなかった。

それが真貴の思惑であり、そう仕向けられていたとしても。

真貴の調教はたった一つの誤算を除いてほぼ完璧な仕上がりとなった。

拉致してから、快楽のみを与え続けた身体は、少し触れただけで朱くなり、蜜を滴らせる熟れた果実となった。

真貴が手酷く抱いたせいか、元々の素質か、痛いくらい強引で強い快感が無いと逝けない身体になった。

たった一つの誤算となったのは、弘樹の愛だった。

行為中は娼婦のように乱れ、強請り、鳴き叫ぶのに、正気に戻ると真貴に暴言を吐き、最愛の恋人へ後悔の涙を流すのだ。

自分が助かるために真貴に媚びたりせず、ただ最愛の人を助けるために屈辱を受け入れているのだ。

身体は調教出来ても、弘樹の心が堕ちることはなかった。

それが真貴には気に食わなかった。


「おい弘樹・・・聞こえてんだろ、弘樹。」

真貴が呼びかけて、弘樹が一回で返事をする事はない。

それが弘樹なりの抵抗なのだろう。

だが、真貴がドスを効かせると返事はしないが視線を向ける。

これは一回弘樹が無視し続けた時に、それに切れた真貴がお仕置きと称して排泄を強要したからである。

「好きだと言え。」

「は?」

真貴の言葉はいつも唐突で、何を意図しているのか、その真意が弘樹には分からなかった。

「俺を好きだと言え。」

「馬鹿じゃねえの。そういうのは好きな奴に言うもんだろ。」

真貴は弘樹が暴言を吐こうが口調荒く返そうが、あまり気にする事はない。

その日の気分によるが。

「言え。」

真貴が淫らな言葉を強要してくる事は多々あるが、好きだと言えと言われたことはなかった。

弘樹が仕方なしに言葉を紡ごうとするが、その二文字は中々音として出てきてはくれなかった。

「・・・弘樹早くしろ。俺が気長じゃないのはよくわかってるはずだ。」

弘樹は喉から声を絞り出す。

胸の中で別の人物を描きながら。

「・・・・・す、き (野分、お前のことが)」

「そんなに彼氏が好きか」

いつの間にか俯いていた顔をあげ真貴をみる。

「あんなに喘いで、腰振って…彼氏が知ったら卒倒するんじゃねぇの?軽蔑されるかもな。もう、お前は元には戻れないんだぜ。」

そう言って笑う真貴はどこか狂気じみていた。

その言葉に弘樹の顔がまた下がる。

「弘樹、俺を好きになれ。そうすれば・・」
「俺は…」

真貴の言葉を遮り、俯いたまま言葉を紡ぐ。

その声は、静かだがはっきりしており、凛とした強さがあった。

「俺はあいつの事が好きだ。優しいあいつが、笑ってるあいつが…あいつが元気でいてくれればそれでいいんだ。例え、その隣にいるのが俺じゃなくても、あいつが幸せなら俺は、それでいい。」

「なら、弘樹。お前のする事は分かってるだろ?」

真貴が俯いている弘樹の顎をとり、上にむかせる。

弘樹は泣くでもなく、ただ穏やかな顔をしていた。

「言え、弘樹。」

「好きだよ、真貴。」

そう言って自分から真貴にキスをする。


(でも、俺が愛してるのは野分、お前だけだよ)


唇と唇が合わさるだけのキスはすぐに荒々しいものに変わると思っていた。

キスだけで終わったことなどただの一度もなかったからだ。

「弘樹、俺は優しい奴だから、お前に時間をやろう。お前は俺が好きなんだから、彼氏なんていらないよな。きっちり別れを告げて来い。期限は一週間だ。」

そう言って真貴は身体を離し、弘樹の持ち物を返す。

一週間ぶりにみた携帯には真貴の番号が登録された以外に弄られた形跡はなく、メールなど全てが未読のまま残されていた。

もちろん野分からきたメールも。

そして、一時間後には懐かしい玄関の扉を開けていた。

あまりにも、あっさりと帰してくれた真貴に違和感があるが、久しぶりの自宅に張りつめていた糸が切れた。

色々考えるのは後にして、とにかく今は身体を気持ちを休めたかった。

昨日まで蹂躙されていた身体はまだ朝だったが、すんなりと安らかな眠りを迎えた。
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