□封印
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何これ…。手が震えた。いや、体全体が震えていたのだ。画面の文字が見えないくらい、手が震えていた。だけど、その指はしっかりと彼の携帯を握っていた。「…ん?……どうしたんだ。…泣いてるのか?」
夫の真哉が眠そうにベットから起き上がって言った。声を上げて泣いていたらしい。ふぁ〜っと欠伸をしてから私の手に握りしめた携帯に目がいくと、それが自分のものだと気付いた。その瞬間、真哉は眠気とは無縁になったようだ。
「おまえ…。誰が勝手に人の携帯見ていいって言った!」凄んだように言葉を吐いた。
この人が、この声が、私を裏切っていた。 震えは最高潮になっていた。
「浮気してたんだね。かなりずっと前から。」
震える声で言った。何も言い訳は出来ないだろう。
真哉の携帯には、肉体関係の証拠を示す内容のメールが相手の女から頻繁に送られていた。
ありきたりだけど、今口にするべき言葉は判っていた。声にしようと息を吸い込んだその時、
「…別れよう。」
私が言うべき言葉を真哉が言った。さっきまで私の隣で寝ていた彼が急に別人に思えてきた。そして、自分がとても惨めに思えた。
「説明はないわけ?い、いつからなの?別れるって、その人と結婚でもするの?」
いつの間にか涙は止まり、震えだけが増していた。
責めたい気持ちで一杯だった。
「いや、別に本気じゃない。だだの友達だったけど趣味が合うし、付き合いが長いからね。向こうから誘ってきた。…おまえより頑張り屋で素直な子だよ。」
「意味が分からない!遊びなわけ?いつから私を騙してたのよ!」
真哉は勝ち誇った顔で煙草に手を伸ばしながら言った。
「昨年の四月くらいかな…。」
一年以上経っている。
「………おまえとはずっと別れたかったんだよ。」
カチッ。ライターの音と共に煙草から煙が上った。
カチッ。
カチッ。
カチッ。
耳の奥で何回も同じ音が反復する。
何かのスイッチが入ったのだ。現実ではない別の世界へのスイッチが。
〈だって、昨年の四月に結婚したばかりなのに。その時から裏切られていたなんて。〉

「私、別れない。その人に合わせて。」
煙草が消された。真哉はしばらく私を見据えて言った。
「いいぜ。」


私と真哉は高校の同級生だった。当時私は好きな人がいて、その人と一緒にいたい一心でいつもつるんで遊んだ。そのメンバーに真哉もいた。一人の女友達にだけ相談し、周りには分からないよう振る舞った。だけど真哉は知っていたらしく

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