BLACK 銀魂
□BLACK 銀魂 8話
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江戸の街の活気に押されながら、こうきは街の中を散策するように歩き続ける。
歩いていても知り合いは誰もいない。 それはそうだ。この町で知り合い。と呼べる存在をこうきには殆どいないのだから。
「いつ歩いても、活気に溢れているな……」
ボソッと呟き、感心するように町並みをキョロキョロと見回しながら歩き続ける。 そんな中、こうきの目は、突然それを捉えた。
真っ黒な毛並みを持ち、大通りを悠々とした足取りで歩きながらこうきの前を横切った影。一匹の猫がこうきの前方に立ちふさがっていた。
「ッ!」
その姿を確認し、こうきは足を止めた。
背筋にゾクリとした寒気にも、似た感覚が走り抜ける。
昔のことは覚えていないこうきだったが、それは昔のこととは関係なく分かった。
自分がその生き物が苦手だと言うことが。
思わず目を逸らし、こうきは猫が自分の前を通りすぎるのを待った。
目を伏せて、少しの間待つ。
そうしてから、ゆっくりと目を開けると、そこにはもう猫の姿はなくなっていた。どうやら通り過ぎていってくれたようだ。
ほっと思わず息を吐いて安堵して見せる。
「猫が苦手たァ。中々可愛いところがあるじゃねェか」
「っと」
横から、突然聞こえた声に、振り返る。
聞き覚えのある声。この江戸に来てから出会った初めての友人、沖田総悟がそこには立っていた。
「よう」
「総悟……見てたの?」
半目で楽しそうに笑いながらこうきを見るその姿にこうきは、ばつ悪そうに頬を掻いた。
「市内見回りの、途中でさァ。中々良いもの見せて貰ったぜェ」
楽しそうに続ける総悟にこうきは深々とため息を吐く。
「何でェ、これ見よがしに息吐いて。そっちは? 折角の休日に一人で市内散策かィ?」
「うん。 今日は、銀さん達もいないし、まだ江戸の街のことも良く知らないから、時間がある時にと思って」
「まあ、それはいい心掛けだけど、あの挙動不審な態度はどうかと思うぜ」
「挙動不審? そうだった?」
全く予想外のことを言われ、こうきは目を丸くして総悟を見やった。
相変わらず、元気のないこうき。
「ああ、あっちにキョロキョロ。こっちにキョロキョロ。 馴れないのは分かるけど、あんな態度ばっかりだと、お上りさんだと思われても仕方ねェでさァ。 この町ァまだまだ危ないところもある。攘夷浪士とかも多いんで、気をつけないとアブねぇぜ」
「ん。分かった気をつける」
「本当なら一緒について行って家まで送ってやりてぇが、土方の野郎が煩いんで、俺ァここで失礼するぜ」
「うん。仕事頑張ってね」
こうきの言葉に頷いて見せながら、総悟はその場を後にし、歩き始めた。
その後ろ姿を見送ってから、こうきはそっとため息を吐く。
「総悟に見られるなんて……」
恥ずかしい所を見られたな。と心の中で言いながら、こうきは言われた通り、あまり辺りを見ないように気をつけながら、市内散策を続けることにした。