BLACK 銀魂
□BLACK 銀魂 15話
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その日こうきはアルバイトも無く、朝から仕事に出て行った銀時の帰りを家で待っていた。
新八は夕方まで実家に戻り、道場姉である妙と共に道場の掃除をすると言うので今日は銀時が一人で仕事に出向いていたのだ。
部屋の掃除も終え、何の気なしにこうきがテレビを付けた時、そのニュースは突然 こうきの目に飛び込んできた。
歌舞伎町でトラック暴走? と言う見出しが右上に刻まれ、やや緊張した面持ちの見覚えのあるアナウンサーが、マイクを片手に話をしていた。
「えー、こちら現場の花野です。トラックは以前歌舞伎町内を暴走中で、警察からの発表によりますと、現在トラック内に二名乗車しており、トラックのブレーキが破壊されているため、泊まることが出来ない状況のようです」
テレビ画面の中で、見慣れた歌舞伎町の町並みが映し出されていた。
と、その瞬間、通りを写していたカメラの奥から左右にブレながら走るトラックの姿が映し出された。
大きなそのトラックには確かに運転席と助手席に、二人が乗っていたが、カメラからは逆光になって運転席がハッキリとは見えなかった。
「ああ! あれです。件の暴走トラックが、こちらに向ってきています。運転席と助手席に二名、どうやらあれが車内に取り残された人たちのようですが、以前速度は落ちていません! あ、今私たちの前を暴走トラックが通り過ぎていきました。それではこのまま出来る限り、カメラで追跡したいと思います」
初めから用意されていたのだろう。アナウンサーが車に乗り込み、カメラもそれに続く。
走り出した車は、暴走トラックの速度を超えて人気の無くなった歌舞伎町内を駆け、やがて、トラックに併走する様に並び、その姿をカメラに写した。
「この近くみたいだ。大丈夫かな」
見慣れた歌舞伎町内を駆ける見慣れるトラック。
こうきは画面を見てから、次いで窓の外を見た。
トラックはこの位置から見える場所を走っては居なかったが、それでも暴走トラックがこちらに来ることを警戒してか、通りに人の姿はなかった。
「どうやら、トラックに乗り込んでいる二人は、トラックを止めようとしているようですが……なにやら言い争いをしている様にも聞えます。えー、マイクさん。あの声拾えます? なんかどっちも聞き覚えのある声なんですけど」
車内の窓から伸びたマイクが、トラックに近づくにつれ、声が徐々に鮮明になり出す。
アナウンサーの言葉ではないが、こうきもまたその声に聞き覚えが在った。
と言うよりも。
「いーから降りろ! こりゃあ警察の仕事だ」
「うるせー、降りられるもんなら、とっくの昔に降りてんだよ。こんなスピードの中降りられるか馬鹿、良いからさっさとそこ退け、俺が止めてやる」
「オメーに止められたら苦労しねぇんだよ。蹴り落とすぞコラっ!」
「いいからハンドル離せ!」
「誰が離すか。オメーが手ぇ離して降りろ」
言い争う声は、どちらも聞き間違えるはずがない。
特に片方は、毎日聞いている声なのだから。
「これ、銀さんと土方さんだ……。なんで二人が?」
疑問を口にしたこうきに答える様にアナウンサーが新しく入った情報と称して、渡された紙に記された情報を読み上げた。
「えー、どうやらあのトラックは、元々真選組に荷物を運搬するために使用されていたものだったのですが、本日分の荷物を運び出そうとした際、トラックに爆弾が仕掛けられているとの情報が入り、真選組の副長が調査に乗り込んだところ、突如トラックが走り出したと言うことです。どうやら実際は爆弾ではなく遠隔操作にてトラックを走らせ、ブレーキを利かなくしていたと言うことで、初めから真選組を狙った者ではないかと考えられているそうです」
その話を聞いて思い出した。
今日銀時が話していた仕事は確か、荷物運搬の運転手だったはずだ。
それが今銀時達が乗っているトラックであり、それに運悪く、巻き込まれたと見るのが正解なのだろう。
「依然としてトラックが止まる気配はありません。一体どこまで行こうとしているのでしょうか? 付近住人の皆さんは危険ですので外には出ない様お願いします」
「次左に曲がれ!」
「あぁ!?」
「良いから言うとおりにしろよォ! 歌舞伎町のことは俺に任せとけ」
「クソッ。何かあったら、後でしょっ引いてやるからな!」
そんな声と共にトラックが大きく曲がり、別の道に入っていく。
それを見た途端、こうきは立ち上がり、玄関に向って駆け出した。
銀時が何をしようとしているのか、分かったからだ。
ブレーキが壊されていて止まることが出来ない。とするならば、次に銀時が考えることは一つ、トラックがぶつかっても大丈夫な場所を探すこと。そしてこうきにはその場所に心当たりがあった。
最近潰れたばかりの空き店舗。そこならば喩えトラックがぶつかっても店は壊れても人に被害は出ない。
銀時ならばそう考えるはずだ。
それが分かったからこそ、こうきは現場に向うため、走り出したのだ。
自分でも、何かできることがあるかも知れないと。そう思って。