BLACK 銀魂
□BLACK 銀魂 13話
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その日、こうきは雑貨屋での仕事を終え、万事屋に帰る途中だった。
江戸の街は相変わらず平日にも関わらず人、天人が多く、ごった帰っている。そんな中、こうきはいつものように近道をしようと、裏道に脚を踏み入れた。
この辺りは真選組が見回っているため、治安も良く、こうした裏道でも平気で歩くことが出来る。
一人で歩いているとこうきはその声を耳にした。
「……これ……の」
聞き覚えのある声。
それは。
「宏行?」
共に江戸にやってきた旧友、何の因果か、こうきを利用しようとした宇宙海賊春雨の元にいる男。
「確か、こっちから」
声を頼りに移動する。左右に使われていない、民家があり、辺りに人の気配もない、近付きながら思い出す。宏行は今、春雨の一員なのだ。
もしかしたら、例のこうきを利用使用していた男と一緒にいるかも知れない。そう考えて、こうきは足を止めた。
引き返そうか、どうしようかと考えていると、後ろから砂利を踏む音が突然聞こえ、こうきは身を竦ませた。
後ろに誰かいる。
同時に香り、届く煙管の煙。
「そっちは行き止まりだぜ。今は特にな」
中低音の耳に残る声。振り返った先にいたのは凍て付くほどに冷たい隻眼。
片目を包帯で隠すように巻いた、女物のような派手な着物を着た男がそこには立っていた。
腰に刀を差しているところを見ると、攘夷浪士なのだろうか。
「あの、貴方は?」
どこかで見たことがあるような気がする。けれど思い出せない、会って話した訳ではない、と思う。どこかで見かけたのだ。一体何処だっただろうか。思い出せずにいると、彼はゆっくりとこちらに近付いてて来た。
「知らねェか。まあ、その可能性はある、な」
喉の奥を鳴らすような低い笑い声、その声にこうきは思わず後ずさる、この男が危険だと、頭のどこかで誰かが言っていた。
「安心しろ。今のところ、お前に興味はねェ、俺はただ人を待ってるだけさ」
そうして男はもう一度笑って見せた。
逃げるべきだ。と頭は命じる。けれど男の目がこうきを捉えている限り、まるで金縛りに遭っているかのように、逃げられない。
ただ、ジリジリと後ろに下がることしか、こうきには出来なかった。
「遅かったじゃねェか」
再び男は口を開いた。けれどそれはこうきに向って放たれた言葉ではない、こうきの更に後ろに向けて発せられた言葉だった。
こうきはゆっくりとそちらを向く。
そこには、男が一人立っていた。
腰に刀を差し、こちらに来た時の服ではない、江戸の住人が来ているものと同じ着物を着た男。
「宏行」
ポツリとその名を呼ぶと、男はチラとこうきを見やり眉を顰めた。
「高杉様なんでここに?」
そう口にした宏行の言葉はこうきには向けられていない。
それもやはり、こうきの後ろにいる男に向けられていた。
「何、俺もチョイとやることがあってな。お前に手伝って貰おうかと思ってな」
「俺に?」
「言っただろう? お前のことを気に入ったと、そしたらコイツが見えたんでな。確かコイツ銀時の所にいるって言う奴だろう?」
そうして男はこうきを見た。その瞳にこうきは思わず身体をびくつかせる。
「先に行っていて貰えませんか。俺は少しコイツに用がある」
「……急げよ」
そう言い残し、男はその場から離れていく。
瞬間、こうきは思い出した。高杉晋助、攘夷志士でありながら、春雨の仲間になったと言う犯罪者。その顔をこうきは真選組の手配書で見た覚えがあったのだ。