MURDERER
□No.33 喪失
2ページ/19ページ
断続的な無数の光がまるで全身に突き刺さるかのように襲い来る。
掴むことのできないそれを避けることはできず、それ以前に避けられる数でもない。
その光の源を全て断ち切ってしまうこともできるのだが、厄介なことに此処ではそれが許されない。
春大陸中部
首都 ヴィナート
ついに、来た。
春大陸最大の街。
大会が開催される街。
計画が遂行される街。
街の警備は陸軍が行っており、一切の悪事は許されない。
しかしながら、暗黙の了解として戦う者・賞金首などの出入りは許可されている。
彼らの金遣いは荒く、街に活気をもたらすからだ。
ただし少しでも不穏な動きを見せたり、街中での暴動・暴力を行えばすぐに捕えられる。
ましてや一般人に手を出した者の行く末は…
「皆、抑えなよ。この街じゃ絶対に手を出しちゃいけないからね」
「そう言ってるお前が一番危ないぞ」
「笑顔黒いっすよ」
「僕は情報を集めるのは好きだけど、情報を取られるのは大嫌いなんだ」
不機嫌極まりないラウルによくカメラを向けられる。
毒舌ではあるが、微塵も顔には出ていない。
きっと彼の写真は全て美しい笑顔に染まっているのだろう。
末恐ろしい。
「スティングさん、今年も大会に出場されるのですね!優勝候補としてぜひ一言!」
「ジンくん、大会出場により滅びたハルバートの力が証明されると言われていますが、それをどう思いますか!」
「ラウルくん、大会出場ごとにファンクラブ会員を急増させていますが、その多くのファンがプレッシャーにはなりませんか!」
首都中部に位置する駅構内。
列車から降りてすぐに、四人は取材のカメラに取り囲まれていた。
一般人が居ることもお構いなしに、記者達は群れを成し彼らに襲い掛かる。
所謂“囲み”状態になったが、それでも4人はゆっくりと駅出口に向かっていた。
首都では一般人は手は出されない。
それを利用しているかのような、彼らの逆鱗に触れそうな質問。
嫌な顔はできない。
記者の力は恐ろしい。
情報一つで人生が変わる恐れがあることを彼らは十分理解している。
ただそれを、彼女が理解しているかは微妙だった。
何せ彼女がこうしてメディアの前に出るのは、初めてのことだから。
「ダリアちゃん、一匹狼だった君がスティングくん達と仲間になったのはどうして!顔、基準!?」
「ラウルくんと付き合ってるということをファン達が噂してるけど、そこのところどう!」
「ダリアちゃん、急に沈黙を破りファンクラブを作ったきっかけは!お金に困ったなんて無いよね!」
「ラビンちゃんと友達ってのは本当?ぜひツーショット写真を!高く売れるよ!」
「賞金首3億、B・Tターゲットになってどう思いますか!さすがに自信ないですか!」
思うところは星の数ある。
特にラウルと……の質問にジンとスティングの殺気がぐんと増した。
だがそれに怯えることなく、逆に押さえ込む記者達の覇気。
首都の記者は偉大で、無謀で、容赦無い。
賞金首を恐れずに取材できるのは、度胸と慣れと経験だ。
少しでも怯えを見せた記者は、輪の隅で彼らの回答を録音していた。
その回答は、適当にあしらったものばかりだが。
「大会が終われば囲みでも会見でもしてやる。だがそれまでは大会に集中させろ。お前らダリアの情報、欲しいんだろ」
「我々だけでなく世界中が求めていますよ!一秒でも早くね」
「今回は囲みは無し。独占インタビューや特集関係は僕が話を聞きます。報酬しだいですから、皆さん頑張ってくださいね」
慣れた振る舞いで記者を蹴散らすスティングとラウル。
ダリアとジンをエレベーターに乗せ、記者を押し出してボタンを押す。
まるで戦争。
笑顔で手を振るラウルの右手は、扉の閉ボタンを連打していた。
「ダリアちゃん、一言お願いします!」
最後の悪ふざけに、一際大きな声が聞こえた。
他の記者もこの質問に賭け、沈黙する。
そしてダリアが言った一言は…
『CM、でるから』
「えっ……、」
ガチャンッ――…
「……ダリア、何もそれを今言わなくても」
「オイ、俺は知らないぞ。何のCMだ」
『キャティー・シフォン』
「いや、それお前……」
『ん、下着』
「………」
――…