MURDERER

□No.32 あの人
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春大陸副都市
エルミナージュ

某高級ホテルにて

 
 
 
 
ラウルの体調を見て、1日休むことにした4人。

それはラウルのことをよく理解しているスティングの判断であった。



でも本当は、結局誰も起こせずに昼過ぎまで寝ていたラウルのために、スティングが仕方なく日にちを延ばしたに違いない。

わざわざ部屋に来て、後ろめたそうに理由を話すスティングを見て、ダリアもジンも内心確信した。
 
 
 
 
「ラウルは今、安静にして寝ている」

「………」

『………』

「嘘ではない」

「嘘では、ないだろうな」
 
 
 
 
翌日、爽快な天候は旅日和。

ラウルも前日によく眠っていたので、その日はまだ朝と言える時間には起きていた。

その時刻は9時。

前日に調べていた列車は10時発ということで、ラウルには用意を急かさせた。

それでも時間はギリギリで、結局はいつかのごとく、4人は街を駆け抜けて、列車に飛び乗った。
 
 
 
 
ホマートミートはまさに田舎町で、副都市と首都間ならなおさら、各停でしか停まらない町だった。

各停と言っても副都市からは首都を含め4駅。

ただその距離は世界地図でも離れていることが黙然であり、各停での乗車時間は午前10時から午後4時の6時間。


その負担は…、大きい。
 
 
 
 
「僕もう無理いや」

「オイ、一言目でそれはないだろラウル」

「だって、ありえないよね。エルミナージュ出たの10時だよ、朝だよ。今もうなんか太陽沈みかけてるんだけど、ねぇッ」

「お怒りっすね〜」

「君だって列車で文句言ってたじゃないか」

『ごめん、皆。まさかこんなところとは思ってなくて』

「全〜然っ、大丈夫!」

「お前は何も気にするな」

「(何、僕はどうでもよさげでダリアに甘過ぎない?)」
 
 
 
 
ラウルの静かな怒りは、どんなに鋭い矢にしても、ジンにもスティングにも効きもしない。

そこでラウルがダリアに矢先を向けないのは、彼自身もダリアに甘いからなんだろう。

自分で気付いていない分、彼自身の負担はさらに増すばかりだった。
 
 
 
 
ホマートミート
春大陸 中部

春らしい風に木の葉が揺られ、さざ波のように音をたてる。

草木が生い茂る町は、自然が豊かなことが目に見えていて、畑の野菜が一層と色艶良く見えた。

真っ赤なトマトに、あれはきっとじゃがいもの葉だ。

無人駅の前に咲く花達は風に揺れ、まるで町人の代わりに踊りながら彼らを迎えているようだった。

頬を染めた桃色のコスモスは、それほど悪い気もしない。
 
 
 
 
「だからって疲れがとれるわけじゃないけどね」

「あのなァ、お前…」

「のどかな雰囲気が一瞬にして消えたね〜」
 
 
 
 
何もない駅前に目立つ4人。
それだけで空気はがらりと変わるのだが、それに気付く町人も見当たらない。

こんな町だ。
大方、美味しい夕食作りかご近所との語らい中なのだろう。

白い自転車で走りゆく郵便屋さんが、遥か遠くの方に見えるくらいだった。
 
 
 
 
『ソルサ・ファンドとどっちが田舎かな』

「教えてあげようか、ダリア」

『そんな情報あるの?』

「あぁ。この町はね、世界で一番のどかな町なんだ」

『世界で一番…』

「ま〜、確かにエネミーみたいに治安悪そうでもないし、都会みたいに騒がしくもないけど」

「それもあるし、この町はどういうわけか、魔物とか賊の襲撃がないんだ。そして一番は、軍への救援要請がないってこと」

「にしては疑いの目付きだな」

「フッ、当たり前だろう。このご時世で、世界一のどかだなんて」

「まあ、そういう事だ。何があるかわからないからな、この町ではおとなしくしてろよ」

「あ、そこスティングがまとめるのね」

『いつものことだよ』

「ジン」

「なんで俺だけっ!?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――…
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