MURDERER

□No.31 計画外の恋
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1日。
たったそれだけしか離れていなかったのに、随分離れていたような気がする。



レッドカーペットの上に堂々と立ち、私達を見据えるスティングとラウル。

その目は恐ろしいものでも悲しそうなものでもない。
真剣な、まっすぐな目だった。
 
 
 
あぁ、そういえば出会った頃はまだこんな目をしてたかもしれない。
二人の目を見た時、失礼ながらもそう思った。

悲しいような、嬉しいような。
 
 
 
 
スウィートチャーム本社
エントランス

私とジンはたたずんだ。
 
 
 
「情報屋に情報隔離室を借りてる。そこで話そう」

「……あぁ、わかった」
 
 
 
少しだけ、ジンが私を守るように私の前に立った。
大きな背中の横から覗き込んで向こうの状況を見る。

ラウルを見たはずなんだけど、すぐに目が合ったのはスティングだった。

ちょっと驚いて、でも驚きはそれだけじゃなくて。

しばらく目が離せないでいると、予想外なことが起こった。
 
 
スティングが、微笑んだ
 
 
 
『――っ…///』
 
 
 
切れ長の目が優しく笑って、いつもは頑なにつぐまれた口元が緩む。

優しくて、格好良くて
綺麗だと思った
 
 
だめだ、これ以上は…
 
 
私は目を反らした。
あんなの、反則だ。
 
 
 
 
――――…
 
 
 
 
スティングとラウルの足が早くて、私は必死に前の二人に遅れないように歩く。

体、痛い…
男女の差とかは、思いたくない。

途中ジンが私の体を気遣ってくれて、スティングとラウルに文句を言おうとした。
 
 
 
『いいよ、大丈夫…。シルフィードのこととか、悟られたくないし』

「でも、アイツら気ぃ遣うくらいさあっ…!」

『いいの…、大丈夫だから。ありがとう』

「ッ、俺はっ…!」
 
 
 
肩に触れる指に力が入っていて、怒っているのがよくわかる。

その怒りは、スティングとラウルに対して?
いや、私に対してもあるんだろうね…。
 
 
 
 
それから、スウィートチャームから情報屋まで、しばらく歩いた。

久しぶりに歩む街並みも堪能する暇もなく、ただ横目で羨ましげに流し見をするだけ。

それなのに今日に限って、私の好きな店の紙袋を持つ人がよく目に入った。



私は情報通でもないし、そこまで本格的な情報売買をすることもない。
軽い情報売買なら小店でできるし、私達はただ情報を取られる側であるだけ。

だから、この人生で情報屋の、ましては副社の入り口の前に立つことなんて、一生ないと思っていた。

天まで届くんじゃないかと思うほど、空高くまで立ちそびえる高層ビル。

首が痛くなるほど見上げても、太陽の光が眩しすぎて最上階は見えなかった。
 
 
 
「イヤだなあ…」

『初めて入る』

「俺も」
 
 
 
避けていたはずの場所に堂々と入るのは、すごく違和感があって不安を感じる。

そう感じてるのはジンも、それからスティングもあまり良さそうな顔はしていなかった。

周りからの目線が痛い。

手際よく受け付けに手続きをするラウルの背中が、すごくたくましく見えた。
 
 
 
 
「こっち」

『あ、はい…』

「緊張しなくてもいいよ。情報屋は敵じゃない。裏切りはするけどね」
 
 
 
 
久しぶりに見たラウルの微笑みは、やっぱり母親のような優しい雰囲気だった。

昨日のことが、夢のようだ
 
 
 
 
――――…
 
 
 
 
情報屋副社
 情報隔離室

長テーブルと、椅子4つ。

パソコンの1つや2つはあってもおかしくはないのに、テーブルの上には何もない。

窓もなく物もなく、天井を見てもカメラも一切ない。


部屋も6畳あるかないか。

圧迫感があり、窮屈。
扉の鍵を閉めれば、完璧な密室だった。
 
 
情報とは、私達そのもの。
この部屋は、私達を隔離する部屋。
 
 
 
座った椅子がギシリと音をたてる。
響いた音が、部屋の狭さをより感じさせた。

座り心地が悪い
居心地も、悪い
 
 
 
そんな部屋で、私達はそれぞれ席に着いて、ゆっくりと話を始めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――…
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