MURDERER

□No.30 一歩、前へ
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風が優しい…
まるで私を慰めてくれているかのように、ふわりと頭を撫でてくれる。

悲しさ、淋しさ、辛さ
全てを取り除いて、どこか遠くへ持っていってくれる。

ありがとう
たとえこれが一時の幸せでも、私は大切に生きるよ。


私、本当に変わったよね。

こんな私を見たら、どんな反応するかな?
きっと泣いたふりでもして、また私を抱き締めようとするんだろうね。


ねぇ、カイン?
私、今、必死に生きてるよ
 
 
 
泣きそうなほどに…
 
 
 
 
――――…
 
 
 
 
夕焼けが沈んだ。
つまり当然のごとく夜になり、光は消えた。

新たに現れた月と星の光を頼りに、二人は空を進んでいた。

そう、空を…
 
 
 
 
「うぎぁァアアアッ!!」

『ジン、おとなしくして。落ちるよ?』
 
 
 
片手…
二人を繋いでいるものは、たったそれだけだった。

ダリアは風の力を使い、自在に空を飛べる。
そして無論、ジンは飛べる訳がない。


飛空艇から飛び降りた後、ダリアはすぐさまジンの手を掴み、猛スピードで飛空艇から遠ざかった。

そのスピードは時速100キロを優に越えるもの。

そして今も…
 
 
 
「ダリアッ、ちょっ…マジ怖いマジ怖いっ!!つか目ェ痛いッ!乾くッ、干からびるッ!」

『ん、慣れてね』

「軽ッ!?あしらい軽ッ!あ、俺、乾物になるかも。ニボシになるかも〜ッ!!」

『ニボシ…って何だっけ?』

「はい、ボケ殺し〜ッ!」
 
 
 
夜空を流れる星。
ダリアの速さはまさにそれ。
だがジンがいては…少々見栄えが悪い。

不安定過ぎる体勢のため仕方ないが…。
いやしかし、それ以前にこのままでは…
 
 
 
「っ…ダリア、マジで…ちょ〜っと腕、限界かも」
『…んー、わかった』

「あ、そう?ッて、うわっ!!」
 
 
 
途端、ダリアはスピードを急激に落とし、その反動で前方に放り出されたジンの体を一気に上に振り上げた。

舞い上がるジン。
赤い髪が夜空に散乱する。

そして急落下。
 
 
 
「うぎゃああああッ!!」

『大丈夫、動かないでっ』

「ムーリムリムリムリムリッ!!!ぐわッ!!」
 
 
 
ドスッ、低い音か響く。

いきなり止まった。
だが浮いた感じはしない。
胸板に感じる、何かは…
 
 
 
「わ、わわっ!ダリア!///」

『ちょっ、動か…』
 
 
 
急落下中のジンを、下からダリアが背中で受け止めたのだ。

瞬間、うっ…と苦しそうな声をしたダリア。
風の力を使っているとはいえ、さすがに男の体は重いようだ。
 
で、なんとか成り立ったこの体勢は…おんぶ。
 
 
 
「だ、だめだって!こんなんじゃエルミナージュまでにダリアが倒れちまう!ι」

『でも、これしか…』

「あ〜…じゃあっ……あ!ダリア物を浮かせることできたじゃん!それを俺に応用とかは!?」

『それは…』
 
 
 
おぶわれたまま、少しだけ顔を覗く。
だがその表情は、ジンの言葉により影を帯びた。

気難しい顔…
ダリアはゆっくりと空を進み始めた。
 
 
 
「あっ、ダリア…」

『最近、機嫌が悪いの』

「へ?…ダリア、が?」

『ううん…、風が』

「よく…、わかんないっす…」

『見た…でしょ?風の精霊』

「えっ…あ、チーターの時の…」

『多分、それ。シルフィード…』
 
 
 
風の精霊、シルフィード。

謎に包まれた精霊の一つ。
ダリアに力を与える精霊。

その精霊の、機嫌が悪い?

謎な上に、感情までも持ち合わせるのかと、一瞬姿を見ただけのジンには理解しがたく、首を傾げている。
 
 
 
「その、シルフィードさんのご機嫌が斜め…で、どうなるの?」

『私にはこうやって力を貸してくれる。でも…』

「ん、なに?」

『…ジンとか、スティングのこと…あまり良く思ってないから、皆のために使う力が弱いの』

「えっ…俺、精霊さんに嫌われてるってコト?ι」

『どうだろう…。シルフィード、多分…嫉妬…』

「ヤキモチッ!?」

『ん、カイ……』

「えっ?」

『…前にも、似たようなこと、あったから…』

「へ〜、複雑なんだな…」
 
 
 
言い掛けた言葉は、幸い背中のジンには聞こえなかったようだ。

しかし最近、ダリアのカインという者への思いが明らかに大きくなってきている。

気付かれるのも時間の問題か…
それとも、会うのが時間の問題となるか…
 
 
 
 
 
 
 
――…
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