MURDERER

□No.29 離別
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世界を騒がせる戦争

空軍本部飛空艇と空賊最強ヴェルスバーンの戦い


今ごろ、情報屋ではこの戦いの情報整理に追われているだろう。
クライムニュースも、明日や明後日にはきっと載せてくるに違いない。
 
 
 
 
でも、騒がしいのは周りだけ。
 
 
飛空艇内部は、そりゃ始めは前部が潰れているせいで、安定した飛行をさせるのに苦労した。

しかし今では、のんびりと流れる雲を追えるほど。

時間がゆっくりと流れる。
緊張と疲れが去ってゆく。


嵐の後の静けさ
まさに、それだった。
 
 
 
 
――――…
 
 
 
 
ミーティングルーム

現在、動力はほぼ全て飛行エンジンに集中させているため、電気は付けていない。

全開にしたカーテン。
窓からもれる西日が、眩しいくらいに部屋を照らす。

斜めに入り交じる光と影の境目がはっきりとしていて、どこか風味がある。



そこに彼らはいた。
お頭と、ティナと、カッチ。
そして、ダリアとスティング。


コーヒーの湯気がよく似合う、その木製の部屋に。
 
 
 
 
「皆、まずはご苦労だった」

「お頭!その…、ごめん、なさい…」

「…もうよい。無事ならそれで」
 
 
 
 
いつもは険しい顔しかしないのに、今は苦笑い。

見て分かる下手なそれは、心地良い程に優しかった。
 
 
 
 
「今まで、黙っててごめんなさい。話、したくてもできなくて…」

「まぁ……、だろうな」

「カッちゃんも、ごめんね」

「いや、俺はっ……。それより、これから…どうするんすか?」

「……うん。船、降りようと思う」
 
 
 
 
ティナの顔が影に隠れた。

申し訳なさそうに。
でもその目、はっきりとは見えないが、多分迷いはない。

この決断はわかっていたはずだった。
ティナがコールに想いがあるならば、確実に。

だからこそ…
 
 
 
 
「駄目だ」

「お頭ッ!?」

「お頭、どうしてっ…?」

「所詮奴は軍人だ。で、お前は賊で、賞金首でもある。それに、今はただの“若気の至り”かもしれん」

「そんなことっ…」

「一時の気に惑わされるな。軽々しく人生を捨てるな」

「捨ててなんかッ…!!」
 
 
 
 
強く、ティナはテーブルを叩いた。
跳ねるコップが、カシャンと小さく驚く。

しんと部屋が静まり、空気が重くなる。
少し気まずいその雰囲気に、ティナは周りを見渡し、逃げるように目を反らした。
 
 
 
 
「ならば地に降りて、あの若造と二人でどうやって暮らしていく?お前は下での生き方を知らないだろう」

「そ、んなのっ…慣れるわよきっと!」

「ティナァ…、お前はこのヴェルスバーンの幹部だ、顔も知られている。それに、誰からも恨みを買っていないとでも思っているのか?」

「恨みはっ…そりゃ、あると思うけど…」

「あるんだ」

「だ、だから何っ!?」

「わからぬか?」

「ね、狙われるってこと…?」

「…お前に恨みを持つものが、お前の幸せを許すと思うか?」

「…でも、でもっ……」
 
 
 
 
何か言い返したい。
でも続く言葉がない。

力に自信がないわけではないが
もし大群に襲われたら?
もし上空から狙われたら?

地に降りるということは、空には上がれないということ。
空を相手にするには、逃げ場がなさすぎる。


不安、がないわけがない
 
 
でも…
 
 
 
 
 
ガチャッ……

扉が遠慮がちに開いた。
近づく足音はなかった。
元から、そこにいたのか…

無意識に目が行く。
入ってきた瞬間にわかる。
決意を宿した瞳。
ティナは、自分が必ず幸せにすると…
 
 
 
 
「若造、立ち聞きか」

「はい、そうです」

「コール!」
 
 
 
 
なんて正直な。
いや、もうこれは開き直っている。

ただ、その意味はどうでもいいからではない。
本気過ぎるから、気にもとめないだけ。
 
 
 
 
「ティナ、私は君を、愛しているよ」
 
 
 
 
いきなりの、告白。
恥じらいなんてない。

それが何を意味するのか…

誰にも分からなかった。
お頭、以外には…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――…
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