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□拘束A
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震えるしかなかった。
よく分からない恐怖が沸き起こってくる。
歯の根が合わない。
ここにいてはいけない、という焦燥感が不安をいや増す。
目隠しが、尚更不安と恐怖を募らせた。
逃げ出そうにも、両手は椅子の背を挟んで後ろ手に縛られており、その椅子も、目の前にいる男に押さえつけられて動かない。
平素であれば、目の前の男を蹴り飛ばして、椅子を持ち上げてそれをどうにかして破壊することも可能であったかもしれない。
しかし、恐怖に支配されている彼に、そのようなことが出来るはずもなかった。
顎に、冷たい手が触れる。
それにさえ、彼の身体はびくりと震えた。
「や、だ…っ」
体温が近付く気配を感じて、身をよじる。
「ッ…っ」
しかし抵抗の悲鳴は冷たい唇に遮られた。
「っん…っ」
様々に角度を変えてそれは彼の唇を塞ぎ、舌が口内を蹂躙する。
「ぁ…ッ」
窒息する恐怖。
もはや拘束され男に唇を奪われていることなどどうでもよく、彼はただ酸素を欲した。
飲み干せずに溢れた唾液が顎を伝い、首筋を流れる。
「は、…ッ」
目が回るようだった。
苦しい。
じわりと目の端から温かい滴が溢れ、目隠しに滲む。
死ぬ、そう思ったとき、それは唐突に彼を解放した。
「ッ…っ!は…っ…ッ、はぁ…っ…ッ…は…」
誰の目も憚ることなく、情けないまでに必死に肺を励まして酸素を取り込む。
「がッ…」
大きな呼吸を4度ほど繰り返した頃に、先ほど顎に触れた手が、彼の前髪を掴み、唾液に汚れた顔を上向かせた。
堪らず、彼はその男の名前を呼ぶ。
「あだ、ち…さ…っ…」
名を呼ばれた男は、心底愉快そうに、しかし同時にどこまでも不愉快そうに口元を歪めた。
 

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