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□禍津
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「そういやお前のシャドウって見なかったよな」
それは直斗のシャドウとの対面の後に陽介に言われた言葉。
当時は「そういえばそうだ…」と漠然と疑問には思っていた。
その後も、陽介たちのように、はっきりとした形で自分とそっくりのもう一人の自分と対面することはなかった。
今なら分かる。
それはきっと、途中から俺が受け入れ始めたからだ。
自分の中にも、影がある。
そのことを。
それは11月に確信となった。
あの誰もいない堂島家のリビングで思い知らされたあの感覚。
今までだって幾度となく感じてきていたはずなのに、忘れていた。
言葉にしてしまえば陳腐なまでにシンプルな、孤独という感覚。
自分は慣れていると思っていた。
何でもないものだと。
しかし、それを実はとても恐れ、疎んでいたのだということをその時思い知らされた。
それまで他のメンバーの色んな側面を見ておきながら、一番最後に自分のそんな面に気がついたということが、自分がどれだけ危ない場所に立っていたかということを教えてくれた。
今は、目を逸らすことなく存在を肯定できる。
行為まで肯定するつもりでは、決してないけれど。
…あの人でなければ俺だったのだろうと。
あの人は俺のシャドウで、俺はあの人のシャドウだったという可能性。
コインのような表裏の関係。
こんなことを言うと陽介なんかは特に泣きそうな顔をするから、口に出して言うことはないけれど。
きっと、俺にも。
この気持ちの奥底には。
禍津がある。