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□10年後
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―2022年 4月

「あーッ!もう、またビーカーでリボンシトロン飲んでる!」
黒板に背を向け教卓に腰を預けていると、不意にそんな抗議の声が教室の入り口から放たれた。
菜々子だ。
俺のためらしい弁当の包みを片手に、腰に手をついてこちらを怖い目で睨んでいる。
「大丈夫だよ、実験には使ってない余ったやつだし」
ひらひらと、透明な炭酸水の入った小さめのビーカーを振って見せる。
「お兄ちゃんは大丈夫でも、私が気になっちゃうの!お兄ちゃんが知らないだけで、誰かが間違って使っちゃってたりしたら危ないじゃない」
他の生徒がいない時だけ、菜々子は俺を「お兄ちゃん」と呼んでくれる。
それ以外の時は「皇さん」か「先生」だ。
1年間こちらで暮らしていた高校2年の時から10年。
菜々子もあれから無事に今日まで育ってもう17歳だ。
身長も大分伸びた。
八十神高校の2年生となり、俺はと言えば1年ほど前から化学の教師として、第二の母校とも言えるこの高校に赴任して来ていた。
 

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