保健室の死神

□落花生@
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ぱきり、ぱきり。

静かな部屋に響く、乾いた音。
先ほどからのんびりと、近所に住むお年寄りからお裾分けしてもらったという落花生を、サイドテーブルに新聞紙を広げて派出須がぱきりぱきりと嬉しそうに割っている。
藤はと言えば、買ってきたジャンプをかいた胡座に乗せたまま、むすっとした顔で派出須の横顔へと視線を注いでいた。
「…」
ぱきり、とまた一つ、落花生の殻が割れて屑が落ちる。
楽しげに割る派出須は藤の不満げな様子には気付かないようで。
派出須がその中身を皿に一粒置いたところで、藤は我慢ならなくなって、その肩をぐいと引いてそのまま床に押し倒した。
「…藤くん?」
冬用の厚いカーペットを背に敷いて、きょとんとした目で見上げてくる派出須には応えず唇を塞ごうとしたところで、ひょいと口に何かを放り込まれる。
「っ…」
舌でなぞるとそれは尖りを帯びた丸い物体で、噛むとばらりと原型を無くした。
口中に香ばしい甘さが広がる。
床に倒す直前に派出須が剥いていた落花生の中身の片割れだった。
「おいしい?」
にっこりと笑みを浮かべて聞いてくる。
「まぁ…」
渋々答えてやると、よっこらせ、と爺むさい掛け声と共に派出須は起き上がった。
そうしていそいそとサイドテーブルを挟んで反対側へ周り、テーブルを藤のほうへずりずりと寄せる。
「これでよし」
ある程度動かしたところで満足げに息をついて、派出須はそのまま藤の向かい側に腰を降ろした。
「?」
目の前には剥き途中の落花生たち。
そして派出須は脇にあった袋から、がさがさと、新たな落花生たちを取り出し、自分の前に広げ、藤の前にも付け足した。
「ごめんね、気がつかなくて…。藤くんも食べたかったんだねぇ」
「………」

しばらく藤は派出須と落花生の両方に交互に目をやり、やがて諦めたようにかくんと首を落とした。
勢いでしたたかに頭をぶつけたテーブルが、がしゃんと鳴った。
 

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