保健室の死神

□波紋
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「だっ…!」
突然そんな声が聞こえて何事かと振り返ると、職員室の入り口に、肩を落として痛そうに額をさするハデスの姿があった。
よく見ると目の端にうっすらと涙が滲んでいる。
「なにやってんだか…」
「大丈夫ですかハデス先生!」
声をかけようと口を開けたところで、聞き慣れた声に先を越された。
「才崎先生…」
「先生は背が高いんですから、気をつけてください!」
「あ、はい…ありがとうございます」
申し訳なさそうに額をさすりながら微笑む派出須に、途端に才崎はハッとしたように顔を真っ赤にして言葉を濁す。
「べ…べつに、いえその…よ、養護教諭がことあるごとに怪我をしていたら仕方がないですし…その…」
「そうですね…ふふ、気をつけます」
「まま待ってください!ちょ、ちょっと待っててくださいね!」
「?」
そう言って入り口に派出須を残して才崎は中へ戻り、しばらくして出て来たときには、何かをタオルで包んだらしいものを手にしていた。
「こ、これを…」
差し出されたそれを受け取った派出須は、感触からそれが何かを察したらしく、驚いたように目を見開く。
「!保冷剤…あ、ありがとうございます…!でも、何かにお使いになっていたのでは…?」
「お昼にケーキを食べたものですから…!その、たまたま持ってて…もう使いませんし…」
頬を染めたままの、しどろもどろになりながらの才崎の説明に、派出須はほっとしたように笑んだ。
「助かります…。本当に、ありがとうございます才崎先生…僕、いつもご迷惑かけてばかりなのに…」
貰ったばかりの氷のうを額に当て、子犬のようにしょんぼりと肩を落とす。
「それとこれとは関係ないです!…お、お大事になさってください…っ!」
「はい」
お大事にと言われた派出須の顔が、とても嬉しそうで。
「…」
派出須と正面からかち合いそうだったのを避けるかのように、藤は意味もなく階段を上がった。
1階分を上がり切って、側の壁に頭をつけて沈思する。
「(なんか…なんだこれ)」
よく分からない感覚が、胸の辺りにあった。
「(もやもやする…)」
いつの間にか、何故だか熱くなっていた頭に、触れた壁の冷たさが、少しばかり心地良かった。
 

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