保健室の死神

□春眠
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うららかな春の日差しの差し込む派出須宅のリビング。
2人は何をするでもなく、頭を寄せ合い、仰向けに寝っ転がって過ごしていた。
藤は派出須の家に来て一緒に昼食を取った後から、ずっと気持ち良さそうに眠っている。
あたたかな日差しとフローリングの冷たさとの2つが丁度よいバランスでとても心地よい。
最初は藤が寝ている横で派出須は通販雑誌をぱらぱらと読んでいたが、藤につられたか、春の陽気の心地よさからか、気が付けば開いたままそれを胸に置いて寝入っていた。
「…ん」
入れ違うように、目が覚めたのかぱちりと藤が瞼を開ける。
「あ…?」
むくりと起き上がり、頭を掻きながら藤は背後を振り向いた。
視界にはすうすうと安らかな寝息をたてて眠る派出須。
「…」
しばらく何事か考えて、藤は口を開いた。
「ハデス」
呼ばれて、寝ぼけた声の後に派出須がゆるゆると瞼を開く。
「ん…?なに、ふじくん…?」
まだ半分以上夢の中にいるような、舌足らずな声。
そこへ、
「ちょい腹貸して」
言うなり藤は先程までいた位置からずりずりと微妙に移動し、派出須の腹にぽすりと頭を乗せた。
「えっ?ちょ、ちょっと何っ…?藤くんっ…」
肋骨辺りで藤の頭がもぞもぞと動く。
頭が落ち着く位置を探しているらしいのは分かる。
しかしこれが物凄くくすぐったい。
びっくりして目が覚めてしまった。
そして、
「ん。すげー丁度良い」
と満足げに頬を腹にすり寄せ、あったかいし、と呟いたきり、しん、と部屋が静かになる。
「藤くん…?」
控え目に、名前を呼んだ。
返事はない。
「ふじく…」
気になって再度声をかけようとして、微かな寝息が聞こえるのに気が付いた。
「…なんだ」
どうやらまた眠ってしまったらしい。
肋骨近くに頭を乗せて眠ってしまった藤の髪を、そっと梳く。
保健室に来る生徒の中でも藤は大人びているところがあるけれど、こういう無邪気なところは中学生らしいと思う。
くすりと笑みがこぼれた。
「(くすぐったいけど…あったかいな)」
そして、派出須も再び瞼を閉じて眠りへと落ちていった。
あたたかな体温と、不思議な安心感を感じながら。
 

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