その他SS

□ニエ
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「この…裏切り者が!」
この身を罵る声を背に浴びて、俺は城から逃れた。
国の責務とは理想とは、犠牲を出さずに成果を出すことではなかったか。
それを、頂点たる王族が犠牲をよしとして未来を築いてゆこうとしているなど質の悪い冗談でしかありえない。
そして、何の疑問も持たず逡巡もせず俺を犠牲にしようとしている兄を、到底看過することなど出来なかった。
“あれ”は何の躊躇いもなく自分を「生ける者」として、俺を「捧ぐ者」と位置づけ、民の支持を受け君臨しようとしていた。
俺が死ぬことを前提に生きていることが許せなかった。
だがしかし、更に許すことが出来ないのは――
「まあいい…ニエは、ニエとなれる者はまだ“ある”」
――かわいい甥を、我が身かわいさに手にかけたことだ。
俺がニエであることを放棄したがゆえに、甥は新たなニエとされた。
それを知ったとき、身が砕けるかと思うほどの後悔の念に苛まれた。
ニエとしての在り方を拒絶したことに対してではなく、ニエを欠いた愚鈍な王がその次にどんな行動に出るかを予測できなかったことに対して歯を噛みしめて悔いた。
甥を救わねばならない。
俺の浅慮ゆえに犠牲となった甥を、俺は救わねばならない。
そして、本当の意味で甥を救うためには、この世界を壊さねば。
犠牲の下に平和が成り立つ、このふざけた世界を滅ぼさなくては。
エルンストよ。
お前は俺が必ず救い、守ってみせよう。

…お前をそんな目に遭わせた愚かな叔父を、許しておくれ。
 

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