保健室の死神

□忘失
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SICKsの面々は皆、『普通』という概念を嫌悪しているためか各々が個性的であり、その分人目につきやすい。
そしてそういった目立つ人物を目に留めるのは大人よりも子供のほうが多い。
そのため周辺の子供や中学生に聞き込みをしている最中に不審人物として警官に呼び止められたり防犯ブザーを鳴らされたりするなどの憂き目には遭ったが、その甲斐あって、あらかじめ聞いていた真理也の特徴と合致する人物の住むマンションを見つけだすことが出来た。
先ほどこのマンションのことを鈍と三途川に電話で伝えはしたが、経一には2人を待っていられる余裕は無かった。
乱暴にヘルメットをグリップに引っかけ、拳の骨を鳴らす。
マンションを見上げていた視線を前に戻すと、そこには願ってもいなかった姿があった。
経一は殴りかかりたくなる衝動を懸命にこらえた。
それを逆撫でするかのように、至って平静な声音で金髪の男――真理也は両手を広げて経一に向かって語りかける。
「感謝するよ。探す手間が省けた」
「そいつはこっちの台詞だ。言え、逸人はどこにいる」
唸るように問い質す経一の言葉に、真理也は、にいと口角をつり上げた。
「いないよ」
「なに?」
経一が真理也の能力を細部まで知っていたならば、彼が人差し指を持ち上げた時点で逃げるべきだった。
ついと人差し指を向けて経一に突き付け、真理也は高らかに宣言した。

「『派出須逸人なんて人間は、存在しない』」



ソファに身を預ける派出須の閉じられた両の瞳を、真理也は背後から回した手のひらで塞ぐ。
その目と口元には慈悲とも錯覚する静かな笑みが浮かんでいた。

記憶も何も全て消した。
宿していた病魔も抽出銃とやらで取り出してその辺に転がしてある。
開けば虚ろで、未だに混沌とした瞳は今や俺しか映さない。

逸人の存在は、その関わりが増せば増すほど、少なからず兄さんを揺るがしていくものになるに違いない。
あの頃だってそうだった。
そして放っておけばいずれ、逸人も俺が明羅であることに気付き、兄さんが兄さんであることに辿りつく。
兄さんは優しいから、逸人が求めればきっと手を差し出すだろう。
その瞬間、俺の存在を無視して。
俺に向けていた視線を逸人へと振り分けて。
あの優しい声を、心を逸人へ向けるだろう。
逸人の求める声に、目にその身を向けて。

……なら、逸人が兄さんを見ないようにすればいい。


「…逸人が俺しか見なければ、兄さんを見ることはなく、兄さんが逸人を見ることもないのだから」
 
 
 
終.
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