ミッシングパーツ

□だいじなひと
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−枕ヶ崎。
何人かの舎弟を従えて歩いていたタカが、立ち止まる。
横に控えていた一人がタカたちの進路上の自販機そばに居た2人に絡んだ。
「邪魔なんだよてめぇらどきやがれ」
「あ?誰にもの言うとんじゃお前」
短髪の男は怯むことなく、逆に睨み返してきた。
そこで、もうひとりを含めた2人の姿がタカの視界に入る。
「(!)おい」
「あぁ?」
「やめろ」
「え」
足早に近づき、タカは反応の悪い舎弟の顔を鷲掴み、壁に押しつけた。
「やめろっつってんだ…オレの客だ」
すんません!と頭を下げた1人を含めた舎弟たちに顎で『しばらくどっか行ってろ』と伝え、タカは2人に頭を下げた。
「ご無沙汰してます」
恭介はタカを見上げ、ぱちくりと目を瞬いていた。
「はー…」
「ヲイコラタカ、恭ちゃんびびらせんなや」
「はは、すんません」
「いや、ごめん…なんか、こんな言い方変なんだけど、大きくなったなあと思って」
「は…」
いまや物騒な風体となったタカが、ぽかんと口を開けて呆気にとられる。
恭介の背後で哲平は一人大笑いしていた。
その笑い声に恭介が恥ずかしそうに哲平を睨む。
「変だけどっつったろ!哲平、笑いすぎ!」
「そんなん言うてもだははははは」
つられてタカも苦笑を漏らした。
「恭さんにゃかなわねえなあ」
「他に言いようがなかったんだよ!」
「でも嬉しいですよ」
「?」
「『怖くなった』…とかって言われんのかと思ってましたから」
今度は恭介がぽかんとする番だった。
「恭さん?」
怪訝そうに見つめてくるタカに対し、手で目元を覆い、顔を逸らす。
「……ごめん、あんまそっち方面を気にしてなかった自分に今びっくりして落ち込んでる」
本当に気にしていなかったらしい様子に、タカは目を丸くした後に再び苦笑した。
「(変わらねえなあ恭さん)」
思わず、口元が緩んでいた。

そんな彼らの様子を、遠目に盗み見ている者がいた。
「はん…あれがタカの弱味ってわけか」
 
−数日後、とおば東通り。
「じゃあ俺買ってくから」
『おおきになー恭ちゃん』
仕事上がりに馴染みのペットショップでヘルシングの猫缶を買った帰り、恭介は周囲を不穏な気配で固められていることに気がついた。
撒くために路地に入ったところで、土地勘の差からか、そこで恭介の前に枕ヶ碕にいるようなチンピラたちが現れる。
「真神恭介だな?」
「!」
「ちょーっとオレたちと一緒に来てもらおうか」
「あー…(これは、逃げなきゃヤバいパターンだよな…)」
まさか東通りでこのような事態に出くわすとは思っていなかったが、格闘技の心得のようなものを持ち合わせていない以上、逃げるほかない。
走るために後ずさった恭介だが、いつの間にか背後にいたもう1人が退路を塞いだ。
「どこ行こうってんだ?」
「(くそ…)…これを届けなきゃいけないんだけど…なっ!」
猫缶の入った袋を鈍器に、恭介は振り返りざま背後のチンピラのすねに思い切り当てた。
「ッテェ!?」
「てめぇこら!!」
くずおれた隙から全力疾走で他のチンピラを振り切り、とおば東通りを駆け抜け、自宅マンションへと走る。
「っはぁ、はぁ…」
マンションの、石畳のある前庭まで走り込み膝に手をついて息を整えながら、恭介は手元の袋を見て、あ、と声を漏らした。
「…ちょっとへこんだかな」
ごめんなヘル、と1人ごちる。
どうやら汁が漏れたりはしていないようだ。
袋に気を取られていた恭介は気が付かなかった。
マンションの植木の影からひっそりと現れた男が恭介の背後で鉄バットを振りかぶったことに。
「がッ…!?」
その一打で、恭介は意識を失い、倒れた。
「バァカ。見越してんだよ」
殴られた箇所から血が流れ、頬を伝う。
「くくく…てめぇの顔が見物だぜ、タカ」
 
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