文章


□ささいな話達
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我が子を3人奪われて
なおも古代に魅せられる
母の狂気を理解できぬ
訳ではなかった
深淵に近づきたい欲求の
深さを身をもって理解して
きたのだから
抜け殻に成り果てた兄らに
思う事はただ惨めだな
それだけなのだ母の狂気を
私は持ち合わせている
しかし、しかしだ古代の禍を込めた書物に怯え、
絶叫の後に意識を失い
今は幸せそうに寝息をたて
る我が子に思うのだ
どうか叶うのならば
この禍を従える才に目覚め
ることの無いように、と。

カナスとヒュウ



人は竜を殺し
竜は人を殺すのです。
ならば目の前の綺麗で
悲しい竜に僕が成すべき
事はただひとつ。
「今助けてあげるからね」
そう、かつて父が
母を救ったように。

ロイとイドゥン



屈託なく笑う、
脳天に打ち込み眼球を突き
破った矢を見て当たって
よかったと笑う。
そんな彼が同じ笑顔で言う
「地上全ての者が敵になろうと僕はロイ様の味方です」
だから、世界があなたに
剣を向けるなら、
僕は世界に弓を引く。
屈託なく笑ってウォルトは
言う。

ウォルトとロイ



魔導の炎に耐えられず、
割れて血の出る指先を
子供達が心配してわらわら
と寄ってきた。ルゥは
わざわざ杖まで持って来て
くれていたので、じゃあ
ありがたく、と手当てを
させる。
(ルゥやレイ、それに他の魔導士がこうして笑って
いられるならば、チャド
やキャス、他の魔導を知ら
ない奴らがこれからもその
恐怖を知らずに生きて
いけるなら、こんな指先な
んて気がつかなかった程に
苦痛な、身体の奥から
焼ける痛みも、減り続ける
魔力への恐れも、価値の
あるものなんだろうなー、
なんて。)

ありがとなお前ら、
治った指先を見た。

ヒュウと子供×4



翻る翼に迷いは無いはずだ
かつての同胞を刃の錆に
することにも
迷いは無いはずだ
友に刃を向ける、無慈悲に
その首が跳ぶ。
かつて仲間ばかりだった
空は同じ景色で刃を向ける
迷いは、無い。
昔、信じる王の為祖国に
翼を翻した騎士がいた、
あの王こそ救国の主なのだ
と胸を張って父が話した。
父とその騎士が信じた王を
俺は見限り空へ行く。

ツァイス



人間とは誰しも踏み出す
際に道標を求めるものだと
知ったのは何時だろう。
どれ程の人間が私に
その標を求めただろう。
神父ではなくただの哀れな
人斬りである私に人を
導く術などあるはずもなく
ただ「答えはその胸の内に」と告げることしか
出来ぬのだ。
明日を描く数々の眼差しは
私に眩しすぎたのだ。
また一人、私に道標を求め
る青年にやはり同じことを
言う。

「祖国ベルンを裏切ったこと、
俺に後悔はありません。」

嗚呼!強い炎の色の双眸に
私は何かの導きを得た
心地がするのだ。

カレルとツァイス



貴方は倒れて貴方を殺した
剣に微笑んだのです
救われたと微笑んだのです
貴方を救うと信じながら
峠で息絶えた同胞を
思い出します。貴方を守る
のだと僕に弓を引き、貴方
を守ってくれと僕に裂かれ
て死んだ彼を思い出します
絶望と言う言葉は美しすぎ
るでしょう。違うのです、
違うのですハーディン様
絶望よりも陳腐な感情なの
です。
「つかれた、もうつかれたよ、そっちにいきたい。」
ウルフ、僕は死んでお前に
会わなければ。切り裂いた
事を謝らなければ。

ロシェ







短い話たちでした。
全部暗い(^q^)

 

 
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