一瞬先の未来を共に

□期待と不安が半分で
1ページ/4ページ


期待と不安が半分で



試合後、日向と影山の入部届は無事澤村に受け取ってもらえ、二人は晴れて烏野高校排球部の一員となった。

「やったな日向!影山!」

「おう!」

嬉しそうな二人と共に慶次も一緒に喜んでいると、マネージャーである清水が段ボールを抱えて持って来た。

その中身は真っ黒なジャージがあった。……この烏野高校排球部のジャージだ。それを受け取った日向・影山はさっそくそれを上に着た。
慶次も日向に急かされて着てみる。サイズもぴったりのようだ。周りをみれば月島と山口の二人も先輩に言われたのか渋々着用していた。

「おお〜、部活でお揃いのジャージとかやっぱりいいですよね!黒ってのもかっこいいし。先輩、似合ってますか?」

「おう!似合ってるぞ」

「うん。似合ってる、似合ってるぞ〜」

慶次は田中と菅原の二人の言葉に嬉しそうにはにかみ、日向はやたら背中を見せていた。

「……これから、烏野バレー部としてよろしく!」

「…おす!」

「はい!」

澤村の言葉に頷いた月島と山口。日向と影山は互いに視線を交差させた後そう応え、慶次もこれからこのチームで頑張って行くんだと思うと感極まり、いつもより大きな声で返事をした。

それからわいわいと騒ぎだした連中から離れた所で、澤村は安心したように溜め息を吐いた。

「なんとか一段落つきましたねー。いやー、最初はどうなることかと思いましたけど、案外いいコンビでやってけるんじゃないですか?あの二人」

なんとなく澤村たちの方にいた慶次が日向と影山の方を見て呟けば、澤村は「そうだといいんだがな……」と呟いた。

「……スガも田中も、あと弁野、お前らも何かいろいろやってくれたんだろ?」

「 ! エ"ッ!?いやっ 別にっ、なにもっ!?」

「ぶはっ、スガ先輩動揺し過ぎですよ〜。俺なんか大したことしてないですよ〜」

菅原の反応に笑った慶次は軽い調子で何でもないと言ったが、澤村はその頭をくしゃりと撫でて、ぽかんとする慶次と菅原に目をやり小さく笑う。

「取り敢えず、丸く収まってよかった……ありがとうな」

その言葉に慶次はカッと顔を赤くさせて恥ずかしそうに俯き、菅原と清水は顔を見合わせた後「おつかれ」と澤村の肩を叩いた。

そんな中、当然こちらの会話なんて聞こえていない日向影山コンビが先程の速攻の練習をしようと言い出し、レシーブ役にと慶次の名前が呼ばれた。
その声に慶次が立ち上がり、先輩の顔を見ないよう下を向きながら駆け出した。

「ゲッ、もう動くのかよ……って慶次?なんか顔赤くないか?」

慶次の顔をみた田中が心配するように声をかけるが、慶次はぶんぶんと首を振って笑みを浮かべた。

「なっ、なんでもないですよ田中先輩!よっし日向ー、バンバン打ってこい!ぜーんぶ拾ってやっから!」

「そんなに拾われたら練習の意味がねーだろうが!あー、早く実際の試合で試してぇな……練習試合とかねぇのかな」

うずうずとボールを握りしめる影山に、日向と慶次は練習試合か…とそれぞれ違う反応を見せた。

「(それまでに日向のレシーブとサーブ、あとブロックももうちょい上達させないとなぁ〜。あの速攻だけじゃ使い物にならないし)」

練習試合に浮かれてテンションを上げる日向を見て慶次は溜め息をついた。

「ちなみに練習試合って、どんな所(学校)と組んでたんですか?」

「あー、練習試合はなぁ……」

慶次が澤村に話しかけた時、ドタバタと足音がして一人の男性が体育館内に入って来た。その手にはなにやら紙が握りしめられ、男性はそれを掲げながら息も整わないうちに興奮したように叫んだ。

「組めた!!組めたよーっ、練習試合っ!!相手は県ベスト4!!"青葉城西高校"!!」

青葉城西…通称"青城"。驚く声や一部ゲッなどという嫌そうな声が上がる。よく組めたな、と山口と同じように感心したのは慶次だ。

「あ、武ちゃん先生!そういえば初対面ですよね?今日から正式に入部した日向と影山ですよ」

「ああ、君らが問題の日向君と影山君か!」

もう問題は解決したけどね、と慶次は笑うと、日向と影山に"武ちゃん先生"を紹介した。

「この人は武ちゃん先生こと武田一鉄先生。現代文の先生だよ」

「そして今年からバレー部顧問を担当させてもらってます。バレーの経験は無いから技術的な指導はできないけど、それ以外の所は全力で頑張るから宜しく!」

練習試合をお願いするために直接あちこちの学校に行っていた武田は中々部活の時間に顔を出せないでいた。
しかしそれも県4強と言われる青城と練習試合を取り付けることができたから凄いことだ。……土下座をしたしてないは置いておいて。

「ただ…条件があってね……」

その条件は、

「"影山君をセッターとしてフルで出すこと"」

「な!」

「………。」

武田の口から伝えられた条件に、各々違う反応を見せた。慶次はというと、影山の方をみて一人思案にくれた。

「(影山は元北川第一中学出身……。あそこのバレー部やってた生徒の大半が進学するのが青城……。なら、今回の試合の条件は……)」

「なんスかそれ、烏野自体は興味は無いけど影山だけはとりあえず警戒しときたいってことですか。なんスかナメてんスかペロペロですか」

「い…いや、そういう嫌な感じじゃなくてね。えーと……」

凶悪顔を浮かべる田中の言葉も、それに怯える武田の言葉も慶次の耳には入らない。

「い…良いじゃないか。こんなチャンスそう無いだろ」

「 ! 」

「良いんスかスガさん!烏野の正セッタースガさんじゃないスか!」

菅原の言葉にさすがの慶次も驚いたように菅原の方を振り向いた。

「俺は、日向と影山のあの速攻が、4強相手にどのくらい通用するのか見てみたい」

その言葉に押し黙る田中はまだ何か言いたげだが、菅原が澤村の方を見れば理解しらかのように澤村が武田に試合の詳細を求めた。

「(日程は来週の火曜……それに1ゲームだけか)」

──随分とまぁ……、ナメられたもんだ。

チリッ、とした殺気にも似た威圧感が慶次から発せられた。それに気づいた影山がびっくりしたように凝視してきたが、慶次は気にすること無く、むしろ満面の笑みで影山と日向に絡みに行った。

「あの速攻は確かにすごいからな。4強だか何だか知らんが相手になってやろうじゃないか。なぁ?ギャフンと言わせてやろうぜ」

目にもの見せてくれる。と獰猛な猛獣のように目をギラつかせている慶次は見たこと無くて、影山は固い表情で頷く。しかし日向はそんな慶次に気づいてすらいないのか「おう!」と大きな声で返事をした。

「ふっふっふ……それに俺を見た"あの人"がどんな表情をするか……楽しみだなぁ」

ニヤリと口端を上げて笑う慶次の表情は、正に悪戯を企む悪役のようであった。生憎と誰一人として気づいていないが。

「 ? なんか言ったか?弁野」

「いや?なーんにも。それよりほら、もう解散みたいだから部室行って着替えようぜ」

「………?おう」

不思議そうに首を傾げる影山と共に、腹減ったー!とダッシュで走る日向を追いかけた。







次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ