思い出のファイル

□初めてのキモチ
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僕が初めて君に会ったのは、夢の中。


大切で、もう二度と出会えないと思っていたたった一人の双子の片割れと一緒にいた少女。


まっすぐで感情的で表情がコロコロ変わる僕と1歳しか変わらない少女。


彼女なら……明るくて元気そうなあの子なら、僕の言葉を聞いてくれるんじゃないかって……そう思ったんだ。


弟の……ナルの傍にいて、手伝ってくれているあの子なら、ナルを助けてくれるんじゃないかなって…………。


だから僕は、ナルをよろしくって意味もこめて君の夢の中に現れた。


本当に、ただ単に、ナルのために思って君の夢の中に現れたのに………。










僕は、君が見せたその微笑みに一瞬息を呑んだ。


優しくて、暖かくて、まっすぐ自分に向けられた微笑み。


僕が浮かべる微笑みなんかと比べものにならないくらい綺麗な微笑み。


相手を想って、自然に向けられた微笑みに、僕は泣きそうになった。


無性に縋りたくなったんだ。


まだ会って間もない、お互いのことなどこれっぽっちも知らないのに。


君が僕のことを「ナル」と呼んだのは仕方のないことで、別になんとも思っていなかったのに……


僕はいつしか「ナル」と呼ばれることが嫌になった。










僕は「ナル」じゃない。


僕は「ジーン」だ。


そう言えたなら、どんなによかったことだろう。


だけどまだ真実を話す時ではなくて。
「ナル」と呼ばれる度にズキズキと痛む胸を押さえて、いつもの微笑みを僕は浮かべた。


どうしてだろう?僕にとっての一番はナルで、一番大切で守るべきものもナルなのに、


ナルを守るために君を利用していることにすごく罪悪感を感じたんだ。


ナルが大切なのに、君も大切だと思って


ナルを守りたいのに、君も守りたいと思って


罪悪感を感じているとか言いながら、夢の中で会えるのをすごく楽しみにしてる自分がいた。


最低だね。僕は君を利用しているのに……君はナルを想っているのに……


夢の中で君に出会えて、嬉しいと感じてる僕がいるんだ。


名前は違うけど、君の声で呼んでもらえて


存在は違うけど、君の瞳で見てもらえて


今この時は君の世界にいられて、僕はすごく嬉しくて楽しくて幸せなんだ。










どんどん君に惹かれていく。


君のことがもっと知りたいって思うんだ。


ナルじゃなくて、僕のことを知ってほしいって


僕のことを見てほしいって


そう、思ってしまったんだ。










夢の中じゃなくて、現実の世界で君に会いたい。


君の声が、瞳が、姿が、見てみてみたいって。










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