思い出のファイル

□出会いA
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それはまだ、始まる前の話。
朱夏と琴音が出会った時の話である。

























その日は照り付けるような太陽の陽射しが地上に降り注いでいた。
空は青く、大きな入道雲がよく映えていた。

白夜と出会って1年が経ち、季節は夏だった。

「うぅ〜〜、あーつーいー。セミの声がうるさーい…………」

《そうだな。だがそれが夏だと思うが?》

琴音のやや力のない声に白夜が応える。白夜は今「毛皮を見ると暑さが増す」という端的かつ理不尽な命令で危険な時以外姿を現すことを禁じられていた。

《では、このようにしたらいかがでしょう?》

鈴やかな女性の声がしたかと思うと、琴音の前に小さな碧色の龍が姿を現す。
銀色の瞳を細め、優しげに琴音を見つめる龍は水神の水姫だ。

水姫は琴音の右腕の二の腕に巻き付くと琴音の周りに水の結界を張る。
ひやりとした感触と自分を包み込む清涼な気に琴音は目を細めた。

「気持ちいい〜。ありがとう水姫」

《主が喜ばれるのでしたら私も嬉しいですわ》

スリスリと腕に顔を擦りつける水姫を琴音は可愛いと思い、微笑みを浮かべながら水姫の頭を優しく撫でた。

《………水姫様だけズルイ。俺なんて姿を現すことすら叶わないのに………》

ぼそりと呟く白夜。姿は見えないが、異界でうなだれていることだろう。
白夜は嫉妬と羨望を水姫に向け、拗ねていた。

「だって白夜。コンクリートは焼けるように暑いんだよ?例えるならフライパン。
歩かせたら白夜の足が焼けるし、頭にのっけても白夜の背中が焼けるでしょ?そんなの私が嫌」

琴音はただ見ていて暑いからという理由だけで白夜を異界に閉じ込めたわけではなかった。
大切な白夜が陽射しで焼けるのを厭うたからだった。

《主……!!それほどまでに俺のことを……。すまなかった。その気持ちだけで俺は十分嬉しい》

感動したように言う白夜。今度はブンブンと尻尾を振って桔梗色の目を潤ませていることだろう。

「あ、なら肩は?背中焼けちゃうけど水姫のおかげで気分的には涼しいと思うし。どうする?」

《主がいいと言うなら……。いいか?》

琴音は頷き、白夜は異界から姿を現すとひょいと跳躍して琴音の肩に乗った。
ちなみに重みは全くなく、器用にバランスをとった白夜は嬉しそうに琴音に頬擦りした。

「くすぐったいよ。ふふっ、アイスでも買って帰ろうか」

《ああ》

尻尾をゆらゆらと振り続け上機嫌な白夜を肩に乗せて琴音は帰途についた。








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