廻る世界の中で
□第1話:新しい入居者
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第1話:新しい入居者
「入居者?」
優雅に紅茶を飲んでいた少女は傍らに立つ青年を見上げた。
「はい。今日からあの白鬼院家の御令嬢が入居されると」
少女の問いに淡々とした口調で答えた青年は紅茶を注ぎ足した。
「ふーん、この妖館にくるんだ。あの白鬼院家のお嬢様が」
通称「妖館(アヤカシカン)」、正式名はメゾン・ド・章樫(アヤカシ)。一世帯につき一人のSS(シークレットサービス)が付く最強のセキュリティーを誇る最高級マンション。
ここは厳しい審査をクリアした選ばれた人間しか入れない。
その内容は高額な家賃を払う能力・家柄・経歴。……と、いうのが表向きの条件。
その本当の意味は……
「まあ、誰だっていいわ。つまらない人間じゃなければ」
ふっ、と少女──鳳仙寺志紀は口端を上げて笑い、傍らに立つ青年──狛木菖影は黙然と頭を垂れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
新しい入居者が来て一日経った朝、志紀はラウンジにて朝食を食べていた。
「志紀ちゃん……おはよ」
「カルタ。ええ、おはよう」
ピンク色の髪を二つに結い、赤褐色の瞳をした少女──髏々宮カルタに志紀は視線をやった。
「志紀ちゃんにも、とんがるコーン…あげる……」
「ありがとう」
指先にとんがるコーンを嵌めると、カルタは自分の席へと戻っていった。
志紀はそれを食べながらカルタが来た方へと視線を向けた。
「あの子が白鬼院家のお嬢様?」
「そのようです」
一瞥暮れただけで志紀は再び朝食を食べ始めた。
食べ終わると片付けを菖影に任せ、志紀は一人の少女のもとに向かった。
「貴女が新しい入居者さん?」
志紀が声をかければ、少女はこちらを振り向いた。
真っ直ぐで艶のある黒髪に紫色の瞳をした美少女は小さく頷いた。
「私は5号室の鳳仙寺志紀よ」
「4号室の白鬼院凛々蝶だ」
こちらも朝食を食べ終えたのか、席を勧められたので志紀は凛々蝶の隣に座った。
「歳も近いし、凛々蝶って呼び捨てで呼んでもいいかしら?私のことも是非名前で呼んで」
にっこりと笑いながら志紀が言えば、凛々蝶は少し驚きながらも頷いた。
「凛々蝶はどうしてこの妖館に?」
「僕は一人になる為に家を出た」
「そう、私と同じね。私も息苦しいあそこが嫌で両親を脅……説得してここにきたの」
「(今脅してと言おうとしてなかったか!?)君と同じ?はっ、君なんかと一緒にしないでもらおうか」
凛々蝶は口から出た言葉にハッとした。また悪態をついてしまった…しかも初対面の相手に。と顔を青くさせた時、志紀はクスリと笑った。
「虚栄心」
ビクリ、と凛々蝶の肩が跳ねた。
「虚勢を張って己を保ち、悪態をついて他人を近寄らせない」
「な……な、にを……。僕は、別に………」
凛々蝶が動揺する中、志紀は突然笑い声を上げた。
「ふふっ、あははっ!おっかしい。まさか私と似たような人がいるとは思わなかったわ。いいえ、私とは少し違うけれど」
貴女、面白いわね。そう言われた凛々蝶はどう返事を返していいのかわからずに黙り込んだ。
「凛々蝶さま」
そんな時、志紀の後ろから名を呼ばれ、凛々蝶も志紀もそちらを向いた。
そしてその人物を見て志紀の目は大きく見開かれた。
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