一瞬先の未来を共に

□期待と不安が半分で
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翌日の部活では明日行われる青葉城西との練習試合のポジションの発表がキャプテンである澤村の口から発表された。

昨日1年の慶次や影山を交えての話し合いから決定したメンバーとポジション、それは……

WS(ウイングスパイカー)
3年 澤村大地
2年 田中龍之介
2年 縁下力

MB(ミドルブロッカー)
1年 月島蛍
1年 日向翔陽

S(セッター)
1年 影山飛雄

Li(リベロ)
1年 弁野慶次

スターティングメンバーは前衛は左から田中、日向、澤村。後衛は左から影山、月島、縁下。慶次は縁下と入れ替わりでコートに入る形となる。

「(最初の練習試合にしては1年の割合が高いけど、Sが影山なら日向も組ませて速攻を試したいし、月島もこの中じゃ一番の長身選手だからブロックに期待できる。……うん、今のメンバーの中じゃ一番のベストかな)」

ポジションにも問題はないだろう。

「日向は確かに月島みたいに背が高いわけじゃない。でもMBの役割はブロックだけじゃない。速攻で得点を稼いで、囮として相手のブロックを引きつける。昨日の速攻見て、日向ほど適任はいないと思います」

「日向、お前は最強の"囮"だ!!」

日向が生きることで日向自身も、周りのスパイカーたちも動きやすくなる。……まあ逆に、日向が機能しなければ他の攻撃も総崩れになる可能性がなきにしもあらずだが。

「まぁ、そこまで重く考えないでもいいよ。お前一人じゃなくて皆で点を取っていくんだから、周りを頼って……って、アレ?聞いてる?日向ー?おーい」

あ、だめりゃこりゃ。意外に日向緊張とかプレッシャーに弱いんだ。真っ正面から受け入れそうなイメージだった。

「これは……ちょっと、もしかしなくてもやばいかもしれない……」

どうにか緊張を和らげないと。そう決意した慶次は翌日月曜の部活、ボールを持ってぶつぶつと何やら呟いている日向に声をかけた。

「日向、よかったら俺とスパイクの練習しない?」

「え?でも、トスなら影山が…」

「その影山、教科担当の先生に呼ばれて部活来るの遅いみたいなんだ。明日には練習試合だし、少しでも速攻の練習しといた方がいいだろ?トスなら俺も上げられるし」

作戦その1。とりあえず大好きなバレーに夢中にさせて緊張を忘れさせる。

「トスなら同じセッターの菅原さんに頼んだ方がいいんじゃないの?弁野はリベロじゃん」

「月島、別にリベロだからってトスを上げないとは限らないぞ。セッターがトスを上げられない時、リベロがトスを上げる場合だってある。それに俺、トス上げるのは上手いよ」

日向の打点の高さもジャンプするタイミング、スピードもだいたい把握してる。そう慶次は言った。

「スガ先輩だって他の人達にも練習付き合ってるんだから、さらに面倒見てもらうのは何か気がひけるじゃん。なら、俺たちだけで練習しようってこと」

慶次の言葉に日向も納得したのか「じゃあ頼むな!」とボールを渡した。

「まぁ見ててよ」

自信ありげに微笑む慶次に月島は眉根を寄せるが何も言わずに見守ることにした。

「じゃあ日向、いつも通り自分の良いタイミングでいいから跳んで。俺がそれに合わせてトス上げるから」

口には出さないが、月島も影山のセッターとしての天才的な技術は認めている。同じセッターの菅原でもあのトスは打てないだろうと思っている。影山だからこそ打てるあのトス。

「(弁野の腕がどおくらいなのかは知らないけど、無理に決まって……)」


──ダンっ!


え、と月島は目を見開いて呆然とした。ネットの向こう側に転がるボール、着地した日向の姿と上げた腕を下ろす慶次の姿を目にして声も出せずにいた。


──今のは何だ。


「うそだろ……」

そう呟いたのは果たして誰だったのか。
笑みを浮かべる慶次にゾクリと鳥肌がたった。これは、土曜の練習試合の時の感覚と似ている。


──得体の知れない"何か"を見た時の感覚。


「慶次!お前すごいな!ドンピシャだったぞ!」

だが日向は何も感じていないのか、はしゃぐように慶次の周りを飛び跳ねていた。

「……やっぱり日向はすごいよ。ねえ日向、もう一回跳んで。俺のトスを打ってくれ」

その慶次は周りの視線に気づいていないのか日向しか見ていなかった。慶次は何かを渇望するようにただただ日向を見つめていた。
もう一回、の要望に快く引き受けてくれた日向がボールを打ち、コートを駆ける。


ボールの落下地点真下に移動し、手を構える。日向の方を見る必要はない。だって、わかるから。
日向の走るスピード、溜めて飛ぶタイミング、最高打点に到達するまでの時間、そしてその手が振られるその瞬間に、


──ここッ!


完璧に合わせるトスを一寸の狂いもなく打つ。
目を開いたその先には、自分の上げたボールを打つ日向の姿が映る。

「(……ああ、最っ高だ……!)」

幼馴染みに上げるトスとはまた違う感覚。でもとても良く似ている感覚は最高に気持ちがいい。

「おいおいマジかよ!慶次、お前マジで影山と同じトス上げられんのか!?」

田中の声に慶次がハッと気づけば、先程まで各々練習していた先輩方が全員こちらを見ていた。

「お前リベロなんだろ?なんでそんなにトスが上手いんだ!?」

心底驚愕してる田中の言葉に慶次はアレ?と首を傾げた。

「俺、言ってませんでしたっけ?リベロになったのはあの人に憧れたからで、その前はセッターやってました。今でも幼馴染みや弟たちの練習に付き合ってるんで、このくらいのトスなら別に普通……」

「初耳だぞ!?え、お前セッターだったの?」

「道理で……」

慶次の説明に驚く田中と澤村の隣で納得した菅原だったが、ふと考え込む。

「(普通ってレベルじゃないぞ。影山並に…いや、もしかしたらそれ以上に精度が高い。慶次はあの時"見ていなかった")」

日向がボールを見ずにトスを上げる慶次を信じて飛んだように、慶次もそんな日向を一切見ずにトスを上げていた。それも寸分違わず正確に。

「ありえない。なんでトスを上げる瞬間目を閉じてたんだ。なんで見てないのにあんな正確なトスを上げられるんだ」

月島の言葉は今まさに菅原も感じていた疑問だった。だが、慶次はその質問をされる意味がわからないというようにキョトンとした表情をしていた。

「なんで…て、わかるから。日向がどこに飛ぶのかも、そのタイミングも、どんなトスを望んでいるのかも、全部わかるから。伝わってくるから」

慶次は自分の手のひらを見つめてそう答えた。全力でぶつけてくるその思いに自分も応えただけだ。自分の持てる技量全てを持って感覚を研ぎすましてボールを上げる。

「でも、ここまで完璧なトスを上げるのも打ってもらえるのも幼馴染み以外じゃ日向だけだし。……あの光景を見せてくれたのも、日向が2人目だ」

最後は上手く聞き取れなかったが、慶次はあの時と同じように眩しいものでも見るかのように日向を見ていた。





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