思い出のファイル

□新年の始まり
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「わー、結構人多いねー」

「だね」

「うん。はぐれないように手を繋いでいよう」

ジーンの言葉に頷き、ジーン、麻衣、琴音の順番に手を繋ぐ。

「(もしかしてこれを狙っていた、とか?)」

チラリとジーンを見るが、にこにことした表情しかわからなかった。

「えーっと、日本のお参りって確か一礼二拍手一礼、だっけ?」

「違うよ。二礼二拍手一礼だよ」

ジーンの間違いを麻衣が正し、ジーンは「そうだっけ?ありがと」と言った。

「2人は新年の願い事ってもう決めた?」

「うん、一応」

「僕も決めてるよ」

そっか、と返し琴音は自分は何をお願いしようかと考えた。

「(今まで神様にお願い事なんてしたことないしなぁ……)」

どうしようかと悩んでいると、麻衣が「普通に一年何事もなく過ごせますように、はどう?」と言ってきたが、SPRでバイトをしている限りそれは無理だと思った。

「……そうだね」

「でしょ?でも参考にはなったよ、ありがとう」

そんな会話をしている内に順番が回ってきて、3人は横一列に並ぶと鈴を鳴らして賽銭を投げ入れた。

一礼、二礼、

パン、パン、

「(ナルの嫌味が少しでも減って優しくなりますように……)」

「(みんなが怪我とか危ない目に合わないように、無事に過ごせますように……)」

「(僕の想いが麻衣に伝わりますように……)」

それぞれ願い事をし、最後に一礼してその場から去る。

「お願い事できた?」

「うん。バッチリ」

「僕も。願い事、叶うといいね」

麻衣とジーンの言葉に琴音もそうだねと笑った。

「あ、おみくじやろうよ!」

琴音が指差し、麻衣とジーンも頷いた。

「私は何かな〜………って、うわっ、最悪だ」

「あたしはー………中吉かぁ。あ、恋愛・縁談で『自分の気持ちを整理してみましょう。そうすれば何が真なのか見えてきます』って。他は……まあまあかな」

「麻衣は中吉か。僕は……大吉だね。待ち人来たる、か。方角は東。恋愛・縁談は『感情が通じ合い良い関係に進展する。急いては事を仕損ずるので注意』か。琴音は何だったの?」

2人はそれぞれ満足する結果だったのか、嬉しそうだった。
しかし琴音はおみくじを手にしてうなだれており、気になった麻衣とジーンは覗き込むようにしてそれを見た。

「「き、凶………」」

それきり何も言えず、気まずい空気が流れた。

「げ、元気だしなよ琴音。凶でもいいことは絶対あるって!」

「そうだよ。まだ大凶じゃないだけましだよ。大丈夫だって。必ず悪いことが起こるわけじゃないから」

必死に慰めるも琴音はおみくじをビシッと突き出す。

「『少しずつ運気が傾き始めています。これから起こる問題では助けはありますが解決までには至りません。自分でどうにかしようとしても空回りになるでしょう。周りを頼って行動すれば解決の糸口は見えてきます』……」

「『仕事・取引…暗雲立ち込め厄介なことになるでしょう。短気を起こしては損。』
『恋愛・縁談…以前からの関係に転機がありよい方向に向かいます。周りをよく見ましょう。』
『健康・病気…避けられない病にかかります。気をつけましょう。過信してはいけません。』
『学業・技芸…余所事に現を抜かさずきちんとしましょう。大変なことになる前に立て直しを。』

これは……全体的に辛辣だね。で、でもほら!恋愛はいいみたいだよ!」

声に出して読んだ2人は微妙そうな顔をするが、麻衣は手を上下に振って琴音を元気づけようとした。

「別に恋愛なんてどーでもいいよ。よくわかんないし」

「「……………;;」」

ついにはかける言葉も見つからず顔を付き合わせて黙り込んでしまった麻衣とジーン。

「と、とりあえず枝に括ろうか」

何とかその場の空気を払拭させたジーンの言葉に従い、琴音と麻衣はおみくじを結ぶと帰ることにした。






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