思い出のファイル
□新年の始まり
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「お節料理、すっごく美味しかったよ。手伝えなくてごめんね、琴音」
「んーん。麻衣が喜んでくれたならそれだけでじゅーぶんだよ」
せっかくの正月を一人で過ごさせるわけにはいかない、と琴音は麻衣を呼んだのだ。
全員(玲治は除く)で料理に舌鼓を打ち、談笑しながら食べ終わったので、今は洗い物中だ。
「しかも余ったのもお土産としてもらえるなんて……」
「はりきって作りすぎちゃったんだよ。気にしないで」
琴音は笑ってそう言い、最後の食器を洗い終えた。
「よーし、終了!麻衣、着替えよ!」
「うん。着物着るの初めてだからわくわくするね!」
手を拭いてパタパタと水姫の待つ別室に駆けていく2人。
《お待ちしていましたわ。ささ、こちらに着替えてくださいませ》
「「はーい!」」
元気よく返事をして着替えていく。……といってもほんとが水姫にやってもらったものだが。
《お二人とも、素晴らしいですわ。とてもよくお似合いです》
頬に手を添えて嬉しそうに微笑む水姫に琴音と麻衣は照れ臭そうに笑った。
《では見せに参りましょうか》
襖をすっと開けた水姫に続き、2人は部屋から出た。
「おおー、なかなか似合ってんぞ2人とも」
「わぁー!すっごく綺麗だよ!」
秀一は馬子にも衣装だな、とか皮肉めいたことを言ってはいるが、ニヤニヤと口元はだらしなく緩んでいる。
ジーンの方は目をキラキラさせて手放しで褒めちぎっていた。
「えへへ」
「そ、そんなことないよー。ジンこそ袴姿似合ってるよ、カッコイイ」
「そうかな?ありがとう、麻衣」
照れ臭そうに頬を赤く染める3人に玲治も『皆さんとてもよくお似合いですよ』と爽やかに微笑んでいうものだから、ますます恥ずかしくなって俯いてしまった。
「なーに恥ずかしがってんだよ。ほら、顔上げろ」
秀一の言葉にようやく顔を上げる3人。秀一は着流しの袖から小袋を取り出すと琴音、麻衣、ジーンにそれぞれ渡した。
小袋の表紙には達筆な墨の字で『お年玉』と書かれている。
「わぁー!ありがとう父さん!」
「えっ!?あたしにもですか?」
琴音は別として、麻衣とジーンは手の平に乗ったお年玉袋に戸惑っていた。
「いーんだよ。お前らも俺にとっちゃ娘や息子みたいなもんだからな」
「でも……」
ぽんぽん、と頭を軽く撫でる秀一に麻衣はまだ浮かない顔をする。
「そこは遠慮しないで受け取るところだろ。琴音が世話になってることだしな」
返却不可だぜ。と言えば2人は苦笑しながらもお礼を言って受け取った。
「おっといけねぇ、もう一個お前らに渡すもんがあった」
首を傾げる3人を余所に、秀一は袖を漁った。
「ほれ。初詣にでもつけてけよ」
そう言って渡されたのは綺麗な簪と腰につける佩玉だった。琴音のは新緑の色をしたアベンチェリン、麻衣のは明るい橙色をしたカーネリアンがついた銀細工の簪で、お揃いのものだった。ジーンのは海色をしたタンザナイトの佩玉(ハイギョク)だった。
「正月っつーのは何かと浮足立つモンだからな。念のために呪(マジナ)いを施しておいた。持ってろ」
お年玉のみならず、こんなもの(かなり高価だよねコレ。宝石だよね!! by琴音)までもらってしまった麻衣とジーンだが、先程のようなことは言わず(どうせまた返却不可だと言われるのがオチだと諦めた)、お礼を言って素直に受け取っていた。
「俺はあんな芋洗いみてーなとこにはいかねぇから、気をつけて行ってこいよ」
人混みや喧騒を嫌う秀一はひらひらと手を振り、3人は苦笑したあと簪と佩玉をそれぞれ付けて玄関へと向かう。
「「「それじゃあ行ってきまーす!!」」」
元気よくそう言い、近くの神社(not縁龍神社)に向かった。
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