思い出のファイル
□宣戦布告?
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「……そういえばナル」
「 ? なんだ」
「琴音がつけていた髪留め………あれはもしかしてナルが?」
ビクリ、とナルの肩が揺れたこてでリンは確信した。
「……去年のクリスマスですか」
「…………。」
「なかなかいいセンスをしていますね。ナルがあんないいものを見つけられたのは意外でした」
「…………………。たまたまだ。たまたま、見つけただけで、別に……」
「たまたま見つけて買って、わざわざ琴音に贈ったと?」
「っ……貰ったなら何か返すのが礼儀ってものだろう」
リンの追求にナルはひたすら目を逸らしながら歯切れ悪く答える。
「……やけに突っ掛かるな」
「いえ別に、ただ気になったもので。琴音が大切そうに触れて嬉しそうに笑っていましたから。誰に貰ったのかと」
リンはその時の琴音の表情を思い出して表情を緩めた。
あまりにも嬉しそうで幸せそうで、見ているこちらが微笑ましくなるような、そんな表情だった。
「贈り主は教えてくれませんでしたが、『貰ったんだ。私の宝物なの!』と言っていましたよ」
「……………そうか」
ギリギリ見える範囲でナルの耳が赤いのが見えてリンは気づかれないように微かに笑った。
「……少し羨ましい、ですね」
ポツリと零せばナルが不思議そうな表情でこちらを見た。
「私は生憎と女性にそういった贈り物をしたことがありませんし、喜ばせることもできませんから」
「珍しいな……お前がそんなことを言うなんて」
ナルは少し目を見開いてリンを見ていた。それにリンも苦笑する。
「そうですね」
「別に贈り物なんてまた贈る機会はあるだろう?それに琴音ならなんでも喜びそうだが?」
真っ黒い瞳が真っすぐに自分に向けられてリンは一瞬息を呑んだが素直に「そう、ですね……」と答えた。
「そこまで琴音が気になっていたのか?日本人は嫌いじゃなかったか?」
「ええ、嫌いですよ。自分じゃどうしようもないくらいに」
だけど、琴音と麻衣の言葉を聞いてから……いや、琴音の言葉を聞いた日からリンは少しずつ変わっていた。
「でも……せめて私の周りにいる人達は……『日本人』としての括りだけじゃなくその人『個人』で見ようかと思いまして」
『私のことは嫌いでもいいよ。でも、私はリンさんのこと好きですから』
『日本人だとか女だとか孤児だとか、それはあたしにもどうしようもなかったことだから、そんなことで嫌ってほしくないの』
自分を真っすぐ見てそう言ってきた琴音と麻衣。
「………そうか。ずいぶんと丸くなったな」
ふ、とナルは笑って水を飲んだ。
「私から言わせれば貴方の方がずいぶんと丸くなりましたよ。
……琴音のことが、好きですか?」
リンの一言にナルは口の中の水を吹き出しそうになった。
それをなんとか押さえると半ば睨むようにリンを見る。
「いきなり何を言い出すんだ」
「いきなりも何も、ただ聞いただけですよ」
対するリンはナルの睨みに堪えたふうもなくそう言った。そしてもう一度尋ねた。
「………答える必要性を感じない」
数秒押し黙ったナルはそう言うとまだ残っている食事を食べる。
その、どこか子供染みて見える行動にリンは溜め息をついた。
「公衆の面前であんなことしておきながら、そんな一言で済ませる気ですか?」
そう言えば、ナルがピタリと固まる。その頬に僅かに朱が上るのを見てリンはもう一度「琴音が好きですか?」と尋ねた。
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