思い出のファイル
□出会いB
3ページ/7ページ
昼休み、琴音は屋上に来ていた。
「はぁ………。疲れた」
《大丈夫ですか?主》
昼休みに入った途端、琴音は教室を飛び出していた。それは、転入生にありがちなクラスメートからの質問から全力で逃げるためだった。
屋上のフェンスに背を預け、空を見上げた琴音は疲れたように溜め息をついた。
「……無理。昔よりは大分マシになったと思うけど、やっぱり、こればっかりは…………」
《仕方ありませんよ。大丈夫です、我が常にお傍におりますから》
小刻みに震える琴音を優しく抱きしめる水姫に琴音は小さく「うん……」と頷いた。
「……谷山麻衣さんがいたね。まさか同じ中学校だなんて」
《そのようですね。『ゴーストハント』のヒロインであるあの方が主と同じ中学校で、同じクラスにいたのは我も驚きです》
世間は狭いですね。と苦笑する水姫に琴音も頷く。
谷山麻衣……彼女はこれからの物語を大きく左右する存在だ。
「イレギュラーな私はどうしようか?離れて見ているべきかな?下手に関わって原作が変わってしまうのも嫌だし」
《主がなさりたいようになさいませ。我は主のお傍にいて従うのみですから》
まさか原作前……中学から彼女と関わりを持ってしまうとは。と琴音はまた溜め息をついた。
自分がこの世界に存在してはならないものだということは理解している。なのに自分は『ユージン・デイヴィス』を助け、原作を大きく変えてしまった。
これはもう、原作通りとはいかない。さらに『谷山麻衣』と関われば、自分は取り返しのつかないことをしてしまうのではないか、という思いがあった。
琴音はそれを恐れていた。物語を変える……理を歪ませてしまうのではないか、と。
「(いや……。自分がこの世界にいる時点で世界の理は歪んでいるか………)」
自嘲し、これからのことを暫く考えていた。
《主、とりあえず今後のことは後で考えるとして、今は昼食を召し上がってくださいな。僭越ながら我が作りました》
どこか誇らしげに言う水姫に琴音は苦笑し、鞄から弁当を取り出した。
中を開ければ、栄養バランスを考えて作られたおかずがたくさん入っていた。
「わ……すごい。美味しそう」
目を見張った琴音は箸を持って食べはじめる。
味は見た目通りたいへん美味しかった。
琴音は頬を緩ませて微笑む。先程琴音が浮かべた笑顔とは違い、自然な笑みだった。
「美味しい……。水姫はすごいね」
《そんな…。お褒めいただき光栄です。主のお口にあってようございました。我も嬉しいです》
水姫は嬉しそうに笑い、食事を食べる琴音を見つめた。
《美味しいものを食べれば主も笑顔になってくださると思いまして》
「笑顔……。私、笑顔になれてなかった?練習したんだけど」
不安そうに見つめる琴音に水姫は首を振る。
《主はきちんと笑顔を浮かべておいででしたよ。ですが我の言う笑顔とは意識して作られたものではなく自然と浮かべたものですから》
いつもその笑顔を見せてくださいませ。と言った水姫に琴音は頑張る、と言って頷いた。
それから水姫の作ったお弁当を黙々と食べ、水姫と楽しく会話していた。
.