思い出のファイル

□出会いB
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それは、桜の花が散り新緑の葉が生い茂る6月のころだった。





「はーい皆さん、席についてください。今日はこのクラスに転入生が来ます」

担任の説明にクラスはざわめきだす。

こんな時期に、という声がどこからか小さくあがった。

中学2年、しかも6月の中旬に転入とはいったい誰だろう?とみんな思っていた。


「じゃあ入って自己紹介してくれるかしら?」

担任が声をかけると教室のドアが開き、少女が一人中に入ってきた。

少女は肩より少し長いくらいの明るい茶髪で、瞳は深い湖の底に似た碧色だった。

タレ目でどこか人懐っこいような感じの少女は控え目に笑うと自己紹介をした。

「鈴宮琴音です。よろしくお願いします」

簡潔に答えた少女──鈴宮琴音は頭を下げた。

「(あの子……何か、おかしい………)」

転入生を見ていた谷山麻衣はそう思った。
どこかおかしいとかははっきりとはわからないが、どこか違うと思った。それは言うなれば直感に似たようなものだ。

「じゃあ鈴宮さんの席は……窓側の一番後ろね。谷山さんの横よ」

「はい」

そう言って琴音は指定された席についた。

「あたしは谷山麻衣。隣の席になるからよろしくね、鈴宮さん」

「うん。よろしく……」

少し驚いたように目を見開いた琴音はぎこちなくはにかみ、麻衣は緊張しているのだと思い、安心させようと優しく笑いかけた。

琴音は目を泳がせた後黒板の方を向いた。

「(人見知りなのかな……?)」

麻衣は首を傾げながらも自分も黒板の方を向いた。








◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








授業が終わると、生徒は転入生である琴音に群がった。

「鈴宮さんはどうしてこんな時期に転入してきたの?」

「親の都合とか?ねぇ、どの辺りに住んでるの?」

次々と浴びせられる質問に琴音は怯えていた。

いや……、大勢に囲まれて見られていることに怯えていたのだ。

「(怖い!!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ!!) ……っ!!」

琴音は目をぎゅっと閉じ、俯いていた。そうしなければ、耳を塞いでこの場から逃げ出しそうになったから。

「ちょっと、聞いてるの?」

「無視しないでよ」

「せっかく話しかけてあげてるのに」

琴音が全くしゃべらないことに気分を害したのか、女子は琴音を睨んでいた。

「やめなよ。いきなり声をかけられたり、質問をたくさんされたら答えられないよ」

そんな女子達を諌めたのは麻衣だった。
その言葉に口をつぐんだ女子は興が冷めたのか、琴音から離れていった。

それに安堵した琴音は大きく息をついた。

「大丈夫?あの子たちってちょっと我が強くって……。でも、悪い子じゃないんだよ?」

「うん……。転入生って目立つしね」

琴音が「ありがとう、助けてくれて」と言うと、麻衣は「いいよ。お隣りさんだし」と言って笑った。

「困ったことがあったら何でもあたしに言ってよ。鈴宮さんの力になるからさ」

差し出された手を暫く見つめ、戸惑ったように琴音は己の手を差し出す。

握手すれば、琴音の肩がびくりと跳ねた。

「あ、痛かった?ごめんね」

「う、ううん……」

琴音は首を振ってするりと手を抜き取った。それに麻衣は困惑するものの、何も言わなかった。

気まずい空気が流れる中、チャイムが鳴った。それに麻衣は慌てて席に座って授業の準備をした。








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